2 覚醒

… 2004年6月1日 16:30


「翔君!翔君!」

誰かが自分の名前を呼んでいる。
櫻井はゆっくりとまぶたを開いた。

自分を見下ろす顔。
松本の心配そうな顔が目の前にあった。

「松潤・・」
ぼんやりとした頭のまま起き上がる。
どうやら今まで眠っていたらしい。

「だいじょうぶか?」
ああ・・・
松本の声に頷いてはみたものの、なんだか胃がむかむかしているし、頭も痛い。

「オレ・・どうしたんだっけ?あ・・みんなは・・・」

薄暗い中でぐるりと周囲を見回すと、そこかしこにバスに乗っていたみんなの顔があった。
誰もがぼんやりとした感じで、どうやら自分と同じ状況らしいことは一目でわかった。

嵐のメンバーは・・・と見ると、少し離れたところから大野、二宮。それに相葉も二人に片手をあげ近づいてきた。
5人が顔を見合わせる。

「オレたち、どうしたんだっけ?」
やはり大野も状況が飲み込めてないらしい。
「確かオレらバスに乗ってたよな?」
相葉の言葉に櫻井は頷いた。
そう、そして確か、あの武装した男たちが乗ってきて・・・
そこからの記憶が途切れている。

「どこだよここ!」
二宮がはっと思い出したように、もう一度辺りを見回す。
それにつられ、嵐のメンバーそれぞれも同じように周囲に目をやった。

正面には黒板。
しかも黒板にはここにいる全員の名前があいうえお順に書かれている。
その前には教卓があり、自分たちがいる前方には机と椅子が綺麗に整列していた。
しかし部屋全体はかなり荒れ果てて、今はもう随分使われてないだろうと想像するに容易いくらい、古く傷つき埃やカビ臭い匂いが立ち込めていた。
左側の壁は一面が窓らしく、黒いカーテンに覆われていて外の様子は見えないものの、かろうじて漏れてくる光によってまだ日中であることだけはわかった。

でもなんで?・・・
松本の顔に櫻井は視線を戻した。

「?・・松潤何それ」
指をさされ、松本は「え」と自分の首に手をやる。

「首―輪?」

櫻井と松本は同時に口にすると、お互いの首についているそれに手を触れた。
いや二人だけではない。
全員、この場所にいる全員の首に鉄の輪がはめられている。
嵐の5人は各々の首に手をやりその感触を確かめた。

「なにこれ・・・」

不気味に光る金属製のわっかに手をかけ上下に動かしてみるが、到底自力では外すことのできない代物だということを理解するのに時間はそうかからなかった。
教室内にいた他の者も首輪に気づき確かめ合うと、ざわめきがさざ波のように広がった。

その時突然、視界がパッと明るくなった。
室内の灯りがつけられたのだ。

そして教室の前のドアが開いた。
みんな一斉に視線をドアに向ける。

「おはよー!」

ガラッと軽快な音をさせて入ってきた人物は――
昨夜の電話でみんなを集めた張本人だった。

「中居くん!」

その場にいる誰もが立ち上がり、現れた中居と後に続いて入ってきた戦闘服の男たちを見つめた。

「はい、みなさん。どうですか?目覚めの気分は」

満足げな笑みを浮かべ教室内を見渡し、中居は当然のように教卓の前に着いた。
銃を手にしている男たちは教室の前後のドアの前をふさぐ格好で立ちはだかる。

その異様な雰囲気に
何?一体どうゆうこと?
と、みんながあっけにとられていると教卓の前の中居は、席についてくださーいと不自然な笑顔で言った。

席?

部屋の後ろに座り込んでいた誰もが動こうとせず、ただ目の前の机と椅子たちを不思議そうに見つめるだけだった。

「やだなあ、ノリ悪いよ?みんな。ほら早く座って座って」
口調とは反対にイライラしている様子で中居が言うと、誰ともなくのろのろと適当な席につく。


「ねーオレ窓際がいい」
「?」
相葉の言葉に大野は振り返った。

「さっきバスではリーダーに席譲ったじゃん」
無邪気な顔の相葉。

「いやバスの窓、景色見えなかったじゃん!ここも外は見えないよ?」
こんなときにも席を選んでいる相葉に、大野はくすくす笑った。

「景色が見えなくても俺いいみたい。窓際がすきなんだな」
「はい、どうぞ」
おどけた声を出し、大野は自分が座ろうとしていた窓際の席を譲った。

窓は黒い布で覆われているにも関わらず、相葉は嬉しそうに椅子をガタガタいわせながら腰掛けた。


その場にいた全ての者が授業風景のように、きっちり人数分用意されている席に着いたのを確認した中居が、教師のように頷いた。


「いったい何だよ、これ。オレ達こんなとこに集めて何するつもりだよ?」
山口がわけがわからないといった表情で中居に問いかけた。

「まーまー。今それ説明するからあせんないでよ」
中居は不敵な笑みを浮かべたまま、みんなの顔をぐるりと見渡し

「これから、ここにいるメンバー23人に殺し合いをしてもらいまーす」

と、軽い口調で言った。


!?
殺しあう?


その言葉が理解できず、誰もが呆けた顔をして中居を凝視している中で
「はぁ?殺し合い?何言ってんの?中居くん」
松岡がすっとんきょうな声をあげた。

「殺しあう?何、ドラマかなんか?」
と長瀬が面白そうといった雰囲気で話に割って入った。
すると

「え?じゃこれも撮影?カメラどこよ?」
「ドラマってことは・・・もしかして月9?このメンバーで?」
「はぁ?キャスト多すぎだって!年末の特番じゃないの?」
「殺しあうってことは誰かが刑事役すんの?俺刑事やりてぇ!」
「なに言ってんだよ、お前は犯人顔だろ。」
「そうゆうリーダーこそ変質者顔じゃん!」
「ぶは!言えてる!!」
「おまえもなー!」
「ひでー!」
「あははははは!」

みんなが口々に思いつくままを話し出し、教室は賑やかなムードで飾られた。


しかしその時、前方のドアの前で銃を持っていた男が突然それを上に向けた瞬間

――バアアン!

耳をつんざく音と共に割れた蛍光灯が、バチバチいいながら天井から落ちてきた。

「うわあ!」

一番前の席にいた者たちが、降り注ぐガラスの破片に一斉に頭を両手で覆うと、蛍光灯の残骸は、中居のいる教卓とみんなの席との間の床に落ちると派手な音を立て砕け散った。

え・・・?あの銃、ホンモノかよ・・・

その光景に誰もが言葉を失い、まだ白煙をあげている男の手にしている銃と、中居の顔を交互に見つめる。


山下が頭を覆っていた手をおろし、顔を上げたとき、隣の席の光一の腕にガラスの破片が突き刺さっているのが見えた。
マジかよ!

「つぅ・・・」

光一が破片を無理やり引き抜くと、血が流れ見る見るうちに左腕が赤く染まっていった。

「光一!」

剛が光一の異変に気づき思わず駆け寄ろうとしたとき

「動くな。座れ」

さっきまでの口調とは打って変わった中居の低い声が響き渡ると、古びた教室の中に緊張が走った。

今まで見たこともない一切の感情が排斥されているような冷たい光を放っている中居の瞳に、光一は狂気じみた異常さを察知すると素早く剛に振り返った。

「剛、座れ、オレは大丈夫や」
この中居君はオレらの知っとる中居君やない・・・・とりあえず逆らわんほうがええ。

光一の表情を読み取った剛は、男の手の銃を見つめ、不服そうな顔をしながらも自分の席に戻った。


すると、緊迫した教室の空気を破るように中居が口を開いた。

「っとに、おまいら、人の話ちゃんと聞けって!
ドラマなんかじゃないんだって。本気で殺し合いなんだよ!
仮にも芸能人なんだからね、くだらない死に方しないでいい絵見せてよ?
そんなんじゃ一生スマップ追い抜けねぇべ。
可哀想だろ?可愛い後輩がいつまでも二流じゃあなー。 
所詮顔だけの二流のホスト崩れみたいなおまいらに、優しい優しい先輩からのプレゼントじゃん。本来はオレに感謝すべきだべ?

・・・ん?何おまいらのその顔。
俺の言ってる意味わかんねぇの?ハァ。っんとに、あったま悪いな〜」

中居は何悪ぶれることもなく暴言を吐くと、自分の卑劣な言葉がツボにハマったのか、けらけらと声を出して笑った。

すると、怒り爆発といった感じでわなわなと長瀬が前に進み出た。

「いくらなんでもそんな言い方ないんじゃないすか!?マジ光一まで傷つけて!
何考えてんだよ!?頭おかしーのは中居くんのほうだろ!あぁ!?」

体の大きい長瀬に掴みかかられると到底腕力では勝ち目のない中居は、苛立った口調で
「なにすんだよ!やめろって長瀬!っとにおまえ頭わりーな!」
と叫ぶと、すかさず戦闘服の男が長瀬に銃を向けた。

「やめとけ!長瀬!」

光一が呼びかけると長瀬は自分に向けられている銃を悔しそうに見つめ、中居から手を離し後ず去った。

「中居君どうゆうことやねん。こんなマネしよって」

光一が傷ついた腕を押さえながら立ち上がった。
その静かな怒りをたぎらせた眼差しに、中居は何も言わず意味ありげに微笑しているだけだ。
しばらく鋭い視線を投げかけていた光一だが中居の態度に、信じられないというように首を振ると腕の痛みに顔をしかめ席に着いた。

それを見ると中居は呼吸を整え、教室内の自分に向けられた敵意むきだしの顔たちをぐるりと見回した。

「とりあえずさ、時間押してるんだよね。だからこの殺し合いのルール説明するんだけど、その前に・・まだ分かってない人もいるようですから、これから余興始めたいと思います。
机の中にカードが入ってます。それをみなさん出してみてくださーい」



小さなどよめきが起きたが、反発する者はいなかった。

ただ言われたとおりそれぞれが机の中を確認する。
机の中に手をやると果たして一枚のカードが入っていた。

国分がそれを取り出すと、それはトランプカードだった。裏返してみるとクラブの2だ。
これはどうゆう意味だ?なんだかいやな予感がして、国分は喉がからからに渇いていくのを感じた。

他のみんなにも同じようにトランプのカードが入っていた。
誰もがぎこちない手つきでそれを眺め、手の中で弄ぶ。

「はいみんな出した?入ってたでしょ?
じゃあ、ラッキーナンバー。トランプでいえばそうだな一番強いのは・・・」

強いのは?

「なんですか?岡田君」

っひ!
突然名前を呼ばれて思わず小さな悲鳴をあげた岡田。

「え・・・あと・・・エース?」
どもりながらもそう答えると

「はい、みなさんどうですか?そうです。エースですね。一番強い数字は」

手の中のカードがスペードのエースと確認して剛はまばたきもせずそれを見つめる。
これが何を意味するものか・・・

「じゃ逆にアンラッキーなカード!」

どきん。
国分の心臓が跳ね上がった。

一番弱いのは何の数字かな?と中居が二宮に問いかけた。

「・・・2」
俯いたままの二宮が小さな声で答えた。

「そうですね、2です。そのアンラッキーなカードの持ち主はだれかなあ」

だれかなあ・・見渡した中居の視線が国分を捕らえた。
国分はその視線を避けるように俯いていた。

「おかしいなー。一人いるはずなんだけどな。2の持ち主が」

「マジかよ・・・」
震える手でカードを握り締める国分。

「国分太一くん?」
中居がフルネームを呼んだ。

もはやだめかと、何が始まるかわからない恐怖にとらわれて国分は身動きができない。
しかし、何故か中居は国分にやさしく微笑みかけ、視線を外した。

「アンラッキーといえばさ、忘れちゃいけないのがひとつあるよね。
ま、ババ抜きでいえばそれは・・・」

「うそだろ?!」

驚愕の声をあげたのは大野だった。
隣の席から相葉が大野のカードを覗き込んだ。

大野君のカードって・・・
中居の言う余興とは何か・・・相葉は心配そうに大野を見つめる。

「ジョーカー。今日のアンラッキーカードはジョーカーです!はい拍手〜」

中居はいかにも面白そうにパチパチと拍手したが、それに続くものはいない。

「チ。ほんとにノリ悪いんだからー」
中居はそう言いながら大野を見据えた。

視線を受けた大野が中居を恐る恐る見上げる。

「大野君のカードは?」

無言で首を振った大野の顔は徐々に青ざめ、唇の色も無くなっていく。
中居は裁判官が最後の判決を下すような顔をして言った。

「ババひいちゃったね大野くん」

大野は救いを求めるように中居を見た。

一体これから何が始まるっていうんだ?
オレはどうなるんだ・・・?


中居は大野の表情を読み取ったように頷き、にこりと笑ったが視線を外し顔を真っ直ぐ教室の正面に向けると、高らかな声でゲームの開始を告げた。


「はい!ババをひいた大野君には罰ゲームをしてもらいます!」




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