6 嘘

… 2004年6月1日 18:30


岡田は1時間程前に聞こえたマシンガンの音が、頭からずっと離れなかった。
ここから見える観覧車の隣にある掲示板には最初から大野の名前があり、マシンガンの音の後で同じV6のメンバー坂本の名前が出たのにショックを受けていたものの、どうする宛てもなくただ黙って座り込んでいた。
そして先ほど掲示板に新たな犠牲者となった松岡の名前が浮かび上がったのには、さらに驚かされ頭を抱えた。

坂本君はマシンガンでやられたんだ・・・一体誰が!それに松岡君まで・・・!
信じられねーよ。
どうすりゃいいんだよ・・・俺も殺されちゃうよ。どうやって戦えばいいんだよ・・・。

確実に殺している人間がいるという事実に岡田はやり切れない気持ちで一杯だった。
こうなるといつ自分が掲示板に表示される側の人間にならないとも限らない。
絶望と恐怖と孤独の中、心細さは日暮れと共に募っていく。

――がさがさっ

後ろで草を踏みしめる音がした。

っ!

突然の音に恐怖で振りかえることもできず固まっていると

「あれ?岡田。」

自分の前に回りこんできたその人物が顔を覗き込んできた。
思わずその顔を見返す。

「なにやってんの?」

秋山の能天気ともいえる表情に岡田は顔をしかめた。

「お・・・お前、なに・・・その血・・・」

はっとした表情で秋山は自分の服を見下ろし、わずかに動揺した。

暫くの沈黙の後

「あー・・・さっき・・・坂本君が倒れてたとこに偶然・・・」

秋山は途切れ途切れに言った言葉を詰まらせ、俯いた。
咄嗟に見てもいない坂本の名前を口にしたのは、松岡の名前をだして松岡と関わっていた、いや自分が殺したなんてことを知られたくないという思いからだった。

秋山はぐっと息を呑んだ。

「血まみれになって倒れてて・・・思わず抱き上げたんだ・・・息はすでになかったけど・・・
そのときに・・・きっと・・」

「まじかよ・・・坂本君の死体に・・・」

岡田の手が、俯きすすり泣く秋山の肩にそっと置かれた。
秋山は俯いたまま目だけを動かし、素早く岡田の表情を盗み見た。
今まで必死にこらえていたものがこみ上げてきたのだろうか。岡田は目を潤ませている。
どうやら自分の言葉を疑ってはないらしい。

うまくごまかせた・・・
安心した秋山は岡田の隣に腰を下ろした。

目の前の草むらに何故か虫取り網が放られている。
それを指差し岡田に問いかける。

「岡田の武器って・・・もしかしてそれ?」
「・・・・」
無言で頷いた彼はバツが悪そうだった。

「あはっ」
耐え切れないといった感じで秋山が笑った。

「笑うなよ・・・」
憮然とした表情で岡田はぼそりと言った。

信じられねーよ・・今坂本君の死体見たって泣いてたくせに・・・
なんとなく秋山の態度に胡散臭さを感じながらも、岡田も思わず聞いていた。

「そうゆう秋山はなんだよ。武器」
「オレ?」

岡田ならまあ大丈夫だろ。

何が大丈夫なのか自分でもよくわからなかったが、殺意があるとはとても思えない岡田の顔を見て秋山は心を緩ませていた。
バッグの中からそれを取り出し、秋山は岡田の目の前に突きつけた。
何かの溶液がはいっている小さな小瓶を。

「なにそれ?」
と岡田は秋山の手の中のそれを眺めた。

「なんだろ読めないけどさ化学記号のようなの書いてるじゃんラベルに」
「うん・・・」

TTXとラベルには表記されているがよく内容はわからない。
毒?それとも薬?
だけどまさかそれを確かめるために飲む気にはとてもなれない。

「・・・なんかパッとしない武器だね?」

岡田の言葉に、虫取り網には負けるって!と秋山が毒づき小瓶を大事そうにバッグにしまい
「じゃあさ。行きますか?」
と、立ち上がるとジーンズのお尻をパンパンと叩いて草を払った。

「行くってどこへ?」
「ほら、武器探しにいかないと・・・俺らもいつ狙われるかわかんないし。
俺らの武器じゃ、遠距離戦でも近距離戦でも死んじゃうよ」

秋山は血がついた服を指差し、すこし困ったように白い歯を見せて笑った。

――戦うつもりなんだ秋山は!

突然自分を取り巻く世界が変わったような気がして、岡田は軽い眩暈を覚えた。

だけど、確かに秋山の言うとおりだった。
いつまでもこんなところにいてもしょうがないし、万が一坂本君をマシンガンで殺したやつが来たら間違いなくオレは殺される・・・。
今だって敵意のない秋山に会ったのは運がよかっただけなのかもしれない・・・。

わかった・・・という代わりに
「濃いよ・・・その顔」
岡田がぼそっと呟き立ち上がると
「え?なんか言った?」
秋山はその濃い顔で岡田に振り返った。

 

「もう、3人も逝っちゃったね」
「わくわくしちゃうよ。太一君やってくれたねー」
「1口10億円。最後の一人は誰か・・・。もう決めないとだめなんだよね。迷うなぁ」
「やっぱり武器の違いは大きいからなー太一君に5口で50億円は妥当だろうな。きっとトキオ同士で殺し合いが始まりそうだし」
「山下君でしょやっぱり。あとは山口君!山口君が死ぬなんて耐えられない!」
「僕はそうだな 光一かな・・・・彼に5口。あとは・・・」

男たちはオッズが表示されているモニタを見ながら、誰が生き残るか予想しあう。
そのとき部屋のドアがノックされ、3人は一斉に振り返った。
現れたのは首謀者の杉田だった。

「みなさんお決まりになりましたでしょうか?」

杉田は薄いアタッシュケースを手にしていた。
真剣に予想を張る3人がいるテーブルに近づくと、ケースを開き中から用紙を取り出した。

「モニタにも表示されていますが、それぞれのメンバーにつけられているオッズは、本人のデータ・・・主に身体能力や、ストレス強度などですね・・・それに武器を考慮したものを元にこちらで出させていただきましたので」

杉田が用紙を配りはじめた。うんうんと男たちは頷き目を通す。

「戦士の名前にチェックしてください。何口お買いになるかはその横に。サインもお忘れなく」

黒尽くめの男――高橋もリモコン操作をする手を止め、配られた紙に目を走らせる。

「ねぇ、ちょっと思ってたんだけどさ〜あ。山下君やけにオッズ低いんじゃなあい?
まぁいいけどぉ〜。あと外せないのは山口君ね!彼の筋肉には期待大よ!
他は・・・あ〜もう誰にしようかしら。ねえせんせはどうするの?」

きゃあきゃあと甲高い声をあげて騒ぎはじめたのは、体をくねらせている吉原だ。

「ちょっと静かにしてくれないかな」

ペンを片手に考えていた議員の中田が、その吉原を煩そうに睨みつけた。
「ごめんなさーい」舌を出した吉原に高橋は冷ややかな視線を送った。

3人とも用紙を前に、悩みながらもペンを走らせる。
よろしいですか?
と杉田が頃合いを見はかり、それを回収していく。

「それでは、ゲーム終了までこちらはお預かりいたします。現金の受け渡しもそのときで」
アタッシュケースの中にしまいむと鍵をロックした。随分と厳重な管理のようだ。

「せんせ。太一君とあと誰にかけたの?ね?何口?」 
しかし中田は、それには答えず黙している。

「ご内密なのさ」
高橋はタバコの煙をくゆらせながら、画面の中の松岡の死体に目をやる。

「ふーん。内緒なのぉ?つまんなーい!」

狂喜に満ちたこのゲームにそれぞれの思いが交錯していた。
杉田は坂本の死体が映っているモニタを遮るように前に進み出ると、3人に微笑んでみせた。


「ひと段落ついたようですね。
ワインとお食事も用意してありますが、もうお召し上がりになられますか?」




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