8 想い … 2004年6月1日 19:30 南を目指し歩き続けてようやく松林の中を抜けると、突然開けた視界にそれが映った。 「死亡者 松岡昌弘 今井翼」の名前が、長瀬を呆然とさせた。 な!松岡君?翼もかよ!! 掲示板に赤い色の文字が光り、坂本に続いて仲間の死を告げていた。 「松岡君・・・なんでだよ・・・なんで! ホントにみんな殺し合いなんてしてんのかよ!!」 叫んでも誰も答える者はいない。 むなしく自分の声だけが暗くなった空に吸い込まれていくだけだった。 長瀬はがっくりと肩をうなだれ、道端の切り株に腰掛けた。 ホントなんかじゃないよな・・嘘だろ・・なあ・・ 笑って今に「ひっかかった〜」とか出てきてくれるんだろ?なあ? そしたら思いっきりグーで殴ってやるんだ・・・ ポロポロと涙が流れてくるのを長瀬は拭いもせずに、足を投げ出したまま空を見上げた。 洒落になんねーよ・・・ こんなの・・信じられるわけねーよ・・ 夢はずっとトキオでいること。 ストーンズみたいに解散しないでさ。 いつかそう話して笑ってたよな 俺たちそう約束したじゃんかよ・・ それなのになんで!なんでだよ!! 死ぬってどうゆうことだよ! なあ・・なんでだよ・・誰が俺たち壊したんだよ・・ なあ・・・ ホントに松岡君死んじゃったのかよ・・・・ 誰か答えてくれよ。 誰か教えてくれよ。誰か・・誰か・・・ もう立ち上がることができない程の悲しみに襲われ、長瀬はその場から動けずに座り込 んでいた。 「健どこいったんだろ・・待ってろって合図送ったのにー」 星たちが夜空を飾っていた。 白い月の光が、林の中であせりながら三宅の姿を探している森田を照らしていた。 教室を出るとき三宅は森田の前の順番だった。 とりあえず外出たらオレのこと待ってろと、三宅と目が合ったときジェスチャーで伝えたつもりだったが、森田が出たとき辺りに三宅の姿はなかった。 ただ単純に通じてなくて三宅が単独で行動しているのならともかく、もし何かに巻き込まれていたらと森田は気が気ではなかった。 掲示板に三宅の名前が出てないことにホッとはしているものの、同じメンバーの坂本に続き松岡、今井までも死んでいるのにはやはりショックは大きい。 どんどん増えてるじゃんかよ・・・一体誰が殺してんだよ! みんなが笑い合っていた数時間前が、まるで遠い過去のようだった。 間違いなく死のゲームは始まっている。 あいつ大丈夫かよ・・・ と三宅の心配をしながらも森田は苦笑した。 てめぇの心配しないとな・・・ こんなふざけた武器じゃ、飛び道具には絶対敵わねーし・・・ ていうか。武器じゃねーじゃん! ハハハと自嘲気味に自分のバッグの中に入っているそれを思い出し森田は笑った。 どうすんだよー・・・ 森田が大きくため息をついたとき、突然土を蹴り上げ近づいてくる足音が聞こえた。 え? 息を切らして走ってきたその姿に目を凝らす。 「長野君・・」 驚いて森田はその人物の名を口にしていた。 「やっぱゴウだったんだ・・あーよかった・・」 ぜいぜいと息を切らして長野は森田を見つめた。 森田もホッとして見つめ返す。 長野君なら安心だ。 心は正直なものだ。いきなり現れた人物が、敵か味方かを無意識のうちに素早く判断していた。 敵か・・・ 咄嗟に出てきた、敵という概念を自分はいつからか持ち出したのだろうか・・・。 森田は自分自身の感情を整理し始めようとしたが、それは長野の呼びかけによって遮られた。 「ゴウだと思って走ってきたんだ。あぁ、疲れた。」 長野は道端にしゃがみこんでバッグから水を取り出し飲みだした。 森田も自然に長野の向かい側にしゃがみこんだ。 飲み終わると長野はふうと息をついた。 「ゴウ・・無事だったんだな」 森田の顔を覗きこんだ長野の目に、みるみるうちに涙が溢れてくる。 何も言えずに森田は頷いた。 坂本君が殺された・・・ 二人は、同じ悲しみを互いの瞳の中に見つけていた。 何をどう話していいかわからなかった。 このゲームという名の「殺し合い」に自分がどう行動をとるべきかも決まっておらず、そうかといって相手の気持ちを確認する余裕や勇気もなかった。 それでも、坂本が死んだということに、お互い傷ついているのはわかっていた。 だけど言葉には出来ない。 坂本君が殺された・・・ 言葉にした途端、自分の目で確認してないそれを事実だと認めてしまう気がして、どうしても口にすることができなかった。 「星きれーだな・・・」 猛々しく茂る林の上に切り取られた夜空を森田は見上げた。 「ああ・・」 長野も同じように見上げた。 「オレたちどうする・・?」 長野は不意にそんな言葉を口にしていた。 坂本の死に、深い悲しみと恐怖を感じていて、年下の森田に思わず問いかけていた。 今は誰かと側にいたかった。 自分を傷つけることのない誰かと。 一人になりたくなかった。こんな島の夜で。 森田はしばらく考えている風だったがやがて静かに口を開いた。 「健、探しに行きたいんです」 「そっか・・そうだな。おまえら一緒じゃないんだ」 確かに森田と三宅が一緒にいないほうが不自然なくらいに、二人の仲の良さを知ってい る長野はその考えに同意した。 「オレも一緒に行くよ」 長野の言葉に森田は反対する理由もなく頷いた。 この申し出はありがたかった。 心細いのは森田も同じだった。 二人は歩き出した。 暗闇に紛れ、自分たちを見つめている者がいることに気づくこともなく。 「健どこいるかなー」 「広いからなー。探すって言ってもどこ行けばいいかわからないよな。それに夜歩き回る のは危険だし」 闇雲に歩き回るのはよそうという長野の意見は確かに正論だ。 森田はしかし、冷静なその意見に何か違うというものを感じずにはいられない。 確かにわかってはいる。それでも大人しく足を止めてじっとしているなんてことは出来 そうにもなかった。 歩き続けていないと、余計なことをあれこれ考えて逆におかしくなりそうな気がしてい た。 でも、まあ確かに宛てもないし、長野君の言うとおりなんだきっと・・・。 夜風が二人の間を吹きぬけていく。 じゃあどうしようか---- そう森田が言いかけたとき 突然バラバラバラっという音と共に足元の土が舞い上がった。 なに!? 二人は顔を見合わせた。 「逃げろ!ゴウ!」 長野の唇がそう動いたのを認める前に森田は走り出していた。 森田は右手へ、長野は林の奥へと必死に走った。 マシンガンの魔の手から逃れようと。 バララララッ またしてもマシンガンが唸りをあげた。 うっ! 小さな呻き声が思わず口から出たが長野は足を止めることなく、転げるように走り続けた。 背中に焼きつくような痛みを覚えながら・・・ ちぇっ・・・見失っちゃた・・・ 国分は林の奥へと逃げ込んだ二人を見て、後を追うために走り出したとき、ひとつの影が正面の道の彼方から現れたのに目を奪われた。 あれは・・・誰だ? 国分のいる位置が勾配のため高くなっていて、よく見晴らしがきいたせいもあり、月明かりに照らされた顔を確認すると、左右振り仰ぎながら長瀬がすさまじい形相でこちらに走ってくるのが見えた。 長瀬・・・ 国分は二人を追うのをやめ翻ると、逆の方向へと走り出した。 「なんなんだよ!今の音は!!おい!誰かいるのか!!」 打ちひしがれていた長瀬を走らせたものは、虫の羽音や鳴き声に包まれている、辺りの空気を切り裂き突然発生したその音だった。 しかも今抜けてきた松林から聞こえてきたのは確かだった。 「おい!」 長瀬は自分の危険も顧みず、林の中を走った。 すると向こうに人影が見えた。 誰だ?今の音は・・・あいつが? それを確認する間もなく影はきびすを返し去っていく。 くそーっ! 怒りで頭に血が上り、影を追おうとした長瀬に うう・・というくぐもった声が聞こえた。 ! 「おい!誰かいるのか!」 長瀬は辺りに目を走らせた。 「ながせ・・・」 声の主は木の陰から現れた。 「長野君!」 長瀬は駆け寄り、倒れかけた長野を支えた。 「おい大丈夫か!」 「あは、オレやられちまったみたいだ・・・」 長瀬は驚いて長野の顔を見る。 長野は苦しそうに脂汗を浮かべている。 腰に手を回し抱きかかえた長瀬の手に、ぬるぬるとした生暖かい感触が伝わってきていた。 「長野君!」 思わず確認すると腰から下が血で染められていた。 「しっかりして!長野君!」 長瀬は泣きそうになりながら長野に呼びかけた。 「とにかく血止めないと!」 バッグの中を確認したが布切れ一枚出てこない。 長瀬は上着を脱ぎ捨てた。さらに脱いだTシャツを引き裂きその腰にあてがった。 それが血を吸うと、また新たにシャツを引き裂き傷口にあてる。 それを何度か繰り返す。 どうしよう。どうしよう。 はぁはぁという、長野の呼吸が浅く早くなっている。 確か・・・長瀬は地図を取り出し懐中電灯で照らし場所を確認する。 「診療所がある。とにかくそこに行こう」 きっとそこなら薬か何かあるはずだ。 「ゴウが・・」 長野の口から思いがけない名前が出たのに長瀬は驚き、聞き返した。 「え?ゴウ?」 「ああ・・・ゴウも一緒にいたんだ。ゴウどこかな・・」 「そうなのか。ゴウ!?」 長瀬は長野を支えながら森田の名を呼んだ。 「ゴウ!ゴウ!」 しかし返事はなく近くにいる気配はない。 「ゴウ無事に逃げてればいいんだけど・・・」 森田の安否を思い、長野は呟いた。 国分は息を切らし、とうとう走るのを止めると茂みの中に倒れた。 あーっあっち〜 流れた汗にすうっと風が吹くと体から熱を奪っていく。 あ〜気持ちいいー 手を伸ばせば届きそうな夜空の星が視界一杯に広がっていた。 弾あたったかなー・・・ 長野君とゴウだったよな。 二人仲良く死んでくれればよかったのに・・・ ちょっと早まったかな。 はー・・・ 国分は仰向けに寝転んだまま、長瀬を見たとき思わず逃げだした、自分でとった咄嗟の行動に驚いていた。 長瀬には闇に紛れた自分の姿は見られてないだろう・・・。 トキオのメンバーを殺せない自分にあきれ返りながら国分は、やはり同じメンバーの 長瀬に自分の姿が見えてないことを祈っていた。 なんでだろ・・・。 もう坂本君殺して、長野君とゴウにまで発砲したっていうのに・・・。 自己矛盾を感じた国分は自分自身に苛立っていた。 でもどうだっていいじゃん・・・ただ ただオレは本能に従うまでだ・・・ それだけ・・なんだ・・・ 国分はそのままの姿勢で、同じ事を何度も頭の中で繰り返していた。 いてえ・・・ いてえよ・・・ 森田は体中がばらばらになるような痛みに喘いでいた。 マシンガンが火を吹き、その内の何発かが自分のからだを貫くと、突然足元が見えなく なり自分の体が宙に舞ったところまでは覚えていた。 その後は気を失っていたのか記憶が欠如していた。 ただ今はこの痛みだけに支配されていた。 くそーっ・・・動けねえ! ここどこだあ? 見上げると、相変わらず月が頭上で白い光を発していた。 目を凝らすとどうやら林の斜面に転げ落ちたらしいことがわかった。 撃たれる前まで長野と歩いていたと思われる松林が上に見え、きつい斜面が回りに広がっている。 落ちたときに岩や木に体を打ちつけたのだろう。 足の骨が折れているらしくとても動かすことはできない。 オレ・・死ぬのかな。ここで・・ なあ・・健・・・ 森田はまた気が遠くなると瞳を閉じた。 |
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