10 悪夢 … 2004年6月1日 22:00 星が輝く夜空の下、展望台の最上階には3人が集まっていた。 櫻井と松本と二宮。 櫻井が最初に来て、後から松本と二宮のペアが到着。これで相葉がくれば嵐集合になる。 大野がいないことを除いて―― しかし、最初に教室を出た相葉はまだ来ていない。 相葉が出て行くとき、近くにいた櫻井は咄嗟に「北に行こう」と叫んだのだが、相葉はショックのあまり奇声をあげて飛び出していったため、その声はかき消され、3人の中に不安が色濃く立ち込めていた。 「翼君まで死んじゃうなんて・・相葉ちゃん無事かな・・どこ行っちゃったんだよ・・・」 シリアルバーにかじりついていた松本が悲しげな声で言い窓から下界を眺めた。 「相葉ちゃん・・・もし全然違う方向へ行ってたらどうしよう」 ニ宮も心配そうに松本の隣に立って外を見つめる。 「それに・・・」 言いかけてやめた櫻井。 「それに?」 松本が振り返り、続きを促す。 「もし他の人が来たら・・・?」 櫻井は松本と二宮を交互に見ながら問いかけた。 どうする? 3人は顔を見合わせた。 電光掲示板に大野、坂本、松岡 そして今井と表示されてから何時間経っただろう。 今井が死んだということには特に強いショックを受け悲しみにくれていた3人だったが、相葉の名前がまだないことに正直ほっとしている部分もあった。 掲示板の表示から、相葉にも3人が無事なことが伝わっているとも思っていた。 だけど、死んでいる人間がいるということは確実に殺している人間がいるということで、いつその人物が現れるとも限らない。 特に島の夜、人は本能的に暗闇を避け、屋根がある場所や風が防げる場所に自然に足が向かうのではないだろうか。 校舎から最も遠い北の展望台だからといって、ここが安心だという理由にはならない。 窓から漏れている光が誰を誘い込むのか、しかもそれが危険な人物なのかそうでないのかを知る手立てはない。 誰でも彼でも迎え入れていいというものではないが、だからといって拒めるものでもない・・・ 櫻井はずっとそれを心配していた。 もしもやばいヤツが来たら・・・と思うと気が気ではない。 ニ宮の武器は手榴弾だ。 これならいざというとき十分応戦できるだろうし、脅かしにも効果を発揮するだろう。 もちろん、できれば使いたくないものだが・・・。 自分の武器は透明のビニール傘。 これじゃあな・・・武器とはいえないかもしれないし、仮に武器として使うとしても――櫻井はその想像にぞっとし首を振った。 加えて、松本のそれは、おもちゃの水鉄砲だった。これは全く使えない! 手榴弾だけはもしものときに備え、展望台の窓の下の床に置いた松本のキャップの中に隠していた。 傘は二宮がさっきから手にぶらさげ、ステッキのようにくるくる回したり、広げたかと思うと閉じてみたりと、落ち着かない様子で弄んでいる。 松本も水鉄砲を窓から外に向けて水を飛ばしている。 「他の人が来たら、どうすんの?」 松本が窓から離れ、部屋の真ん中に座り込んでいる櫻井に近づき、向かい側に少し離れて座った。 「うん・・・誰が危険かそうじゃないかがわからないから・・・」 「そうだよな・・」 櫻井の答えに、ニ宮も窓の外を見ながら困ったように頷いた。 3人の中に沈黙が訪れた。 しばらく静寂が続いたが、その空気に耐えられなくなったのか松本が突然立ちあがった。 それからいきなり二宮に水鉄砲を向け、それを発射した。 「うあ!なんだよ!冷たいじゃん!」 「どうすんだよーニノ」 「どうするってさー。なんだよ潤クンこそどうすんだよー」 二宮も傘を広げ、飛んでくる水から身を守ろうと応戦する。 「っ!んだよー」 松本は二宮の、傘で隠れきれない部分を狙い水を発射し続ける。 「やめろってー」 二宮も困ったような顔をしながら、広げた傘で身を覆い松本の攻撃から逃げ回った。 「げ!濡れてるし!」 「やったー!左のガード甘いよニノ!」 松本がはしゃいだ声をあげ、逃げ惑う二宮にしつこく水鉄砲を向け追いかけると、二宮は櫻井の後ろに回りこんだ。 あ・・・! 次の瞬間。 立ち上がった櫻井の股間に、松本の放ったその水がうまい具合にヒットした。 やべえ・・・。 松本は思わず肩をすくめた。 「・・・ふたりともさー」 自分の濡れた股間を見下ろした後、櫻井が怒った顔で松本と二宮を交互に見た。 「いい加減にしろよ!何やってんだよこんな時に!大野君のこと忘れたの!?相葉ちゃんのこと心配じゃないの!?」 櫻井のうわずった声が響いた。 「ご・・ごめん。翔君」 松本が言うと、傘を閉じ二宮も頭を下げた。 「ごめん・・忘れたわけじゃないよ・・そんな忘れるわけないし」 二人の言葉に、つい怒鳴った気まずさから櫻井は自分自身をたしなめるように、ふうーと細い息を吐き頷いた。 そうだ・・・わかってる。 ここにいてもどうしようもなく時間は過ぎていくばかりで、何も進展がない。 だから不安な心とは裏腹に、ついにふざけてしまったりする二人の気持ちも分からないでもない。 「こうしてても仕方ない。時間は過ぎてくし、相葉ちゃんいないかちょっと見てくるわオレ」 「じゃあオレも行くよ。二手に分かれて探そう」 櫻井の意見にほっとしたように松本もすぐに同意した。 「ちょっと待ってよ。じゃあオレもいく」 ニ宮があわてたように言った。 「いや、二ノはここにいろよ」 櫻井が首を振る。 「けど・・・」 心配そうな顔で二人を見るニ宮に櫻井が笑顔を向けた。 「すぐ来るって。とりあえず20分。相葉ちゃんいなくても20分したら戻ってくるから」 これだけ持っていくわ。と櫻井は地図と懐中電灯を手にし、松本は傘を持った。 トントントン 階段を下りていくふたつの足音を聞きながら、ニ宮はひとり取り残される不安をかみ締めていた。 二宮にとって長い長い20分が過ぎた。 しかし、ふたりとも戻ってこない。 どっちも戻ってこないなんて変だ。 ニ宮はいてもたってもいられなくなった。 ザザザ・・ 突然展望台の隅に取りつけられていたスピーカーが音を発した。 「うわあああ!」 驚いて大声を出した自分の声が反響して、ニ宮はあわてて口を両手で押さえた。 「はいはいジャニーズウルトラクイズ大会に出場のみなさん。あははっ! 元気ですかー?がんばってますか? 6時間が経ちまして、今は6月1日23:00でーす。では掲示板でも確認済みかと思うけど死亡者の名前を発表します。 まずは大野智君。それと坂本昌行君。松岡昌弘君。今井翼君 以上4名です。 ちょっとペースあげてがんばって欲しいところです。 禁止エリア今から発表するんでそこにいる人は速やかに移動してください。 場所は地図のA地区、B地区、I地区、F地区でーす。 また6時間後に放送します。それでは以上!」 何故かスマップの「がんばりましょう」の曲にのってふざけた調子で流れてきた中居の声に地図を確認していたニ宮はあせった。 ここ禁止エリアじゃん! あわててニ宮は武器の手榴弾をポケットに入れると、少し考えてから3人分のバッグを手に取り飛び出した。 バッグが3つのせいでよろめき、転げるように階段を下りる。 外に出てきょろきょろ辺りを見回す。 と、向こうに人影が見えた・・・潤君?翔君? と思いほっとして手を振る。 しかし月の光に照らされた顔を見ると、二人のどちらでもないことがわかった。 「相葉ちゃん!」 思わず息を切らしながら相葉の前に駆け寄った。 大野の血で汚れていたものの、相葉のからだがどこも傷ついてないことがわかると 「相葉ちゃん無事だったんだね!」 ニ宮はうれしくてはしゃいだ声をあげた。 しかし相葉は意外なほど冷静に 「松潤は?それに翔君は」 と二人の姿を探し辺りを見回している。 「いるよ!さっきまでいたんだよあそこに。で相葉ちゃん探しに20分前に出て行ったんだよ。すれ違わなかった?」 展望台を指さし、ニ宮は言った。 「ううん」 首を振る相葉。 「そーか行き違いになったかな・・とにかく近くにいるはずだから探さなきゃ!あ、これみんなの分の荷物だから」 ニ宮は相葉にバッグをひとつ渡し、空いた左手で相葉の手をひき走り出した。 相葉もひきずられるように小走りになる。 「放送聴いたでしょ?ここ禁止エリアだから早く出ないと首輪が爆発しちゃう」 首輪が爆発しちゃう―― 相葉が突然立ち止まりバッグを取り落とした。 ? ニ宮が振り返り、そんな相葉を不思議そうに見た。 「大野君は?」 え? 大野君? なにいってんだよ。大野君はもう・・・ ニ宮はそこで口をつぐんだ。 相葉ちゃん・・・どこ見てるの? 「大野君に会いにいかなきゃ」 何いってんの?相葉ちゃ・・・ 言いかけたニ宮はその言葉を思わず呑む。 深い悲しみをたたえた表情で相葉は展望台の方を見ている。 そして何かに呼ばれているかのように歩き出した。 「ちょ!待ってよ!!」 ニ宮はバッグを置いて、相葉を引きとめようとした。 しかし相葉はニ宮を押し返し、展望台へと歩いて行こうとひたすら一点を見つめている。 「・・・夢だよね?これは。夜が過ぎれば大野君に会えるよね?だから大野君のことあそこで待ってなきゃ。誰もいないとかわいそうだよ」 相葉は夜の闇に向かってひとりごとのように呟いた。 ニ宮は恐怖を覚え思わず相葉から手を離した。 その姿がだんだん小さくなっていく。 どうしよう・・・・ 「ニノっ!」 自分の名前を呼ぶ声に、途方に暮れていたニ宮ははっと振り返った。 「潤君!翔クン!」 「なにやってんだよ!放送聞いたろ!やばいってここ出ないと!」 二人とも放送を聴いて飛んできたのだ。 「だって、だって・・・・」 言葉にならない程のニ宮のただならぬ様子に松本が気づき、ニ宮の見ている方向に目を走らせた。 「あれは・・・」 松本が問いかけるとニ宮は涙目のまま頷いた。 「おい!相葉ちゃん」 櫻井も相葉の姿に気づくと、松本と二人で駆け出す。 ニ宮は足がすくんで動けない。 そこに突然新たな人物が暗闇から現れた。 「相葉あぁぁぁーーー!!」 展望台の東方向から来たと思われる滝沢が、そう叫んで相葉へと銃を向けた。 バン! いきなり撃ち込まれた弾は、相葉から少し離れた場所の土をえぐった。 滝沢君!? なんで相葉ちゃんを!? 訳がわからないまま嵐の4人は、相葉に撃ち込んできた滝沢と、その手に握られている銃を見つめた。 滝沢の指がゆっくりとまたトリガーを弾こうとした動きが、月明かりで浮かび上がり 「やめろー!」 思わず櫻井が相葉を庇いその前に一歩踏み出た瞬間 バン! 拳銃が再び弾丸を弾き出すと、今度は櫻井の右の足を貫いた。 「翔君!!大丈夫!?」 松本は負傷して倒れかけた櫻井を抱えた。 「くっ・・逃げろ!ニノ!相葉ちゃん連れて早く!」 櫻井が痛みをこらえ力を振り絞り、声を張り上げた。 その声に弾かれたように二宮は相葉に駆け寄り、呆然と突っ立ている相葉の手を取った。 素早く向きを変え走り出す。 滝沢も銃を向けたままその二人を追う。 松本も櫻井を抱きかかえ重い足取りで、その背を追って歩き出した。 相葉と二宮に射的距離まで追いつくと 「逃げるな!相葉!お前が翼殺したんだろう!」 と滝沢が叫び再び相葉に銃を向けた。 バーン! 滝沢は扱いにくい拳銃をすさまじい集中力を発揮させ、見事相葉を撃ちぬいた。 弾を受けた相葉は地面に倒れこむ。 「相葉ちゃん!!」 相葉の背から血があふれ出ていた。 うそだろ?翼君を殺したって・・相葉ちゃんが!? 滝沢の叫び声に動揺しながらも、二宮は苦痛で呻く相葉を抱き起こした。 相葉に肩を貸し目の前のテトラポットが乱立しているところに飛び込むと、その間に隠れこんだ。 「・・・」 相葉が二宮を見て何かを言おうと唇を動かす。 「何?相葉ちゃん・・・」 二宮は必死に相葉の口の動きを見ようと顔を寄せた。 「なに・・・?どうして俺・・・」 しかし相葉がそう言いかけたところで滝沢の声が近づいてきた。 「隠れてないで出てこいよ、相葉!なんでだよ!なんで!! 翼が殺されなくちゃいけないんだよ!絶対許さない!!」 翼・・・! 首に光る今井のペンダントをぎゅっと握り締めた滝沢の瞳から、熱い零がこぼれ落ちた。 そしてバッグから今井の武器だったボウガンを取り出し 「お前のかたきは、オレがとってやるからな・・・」 と小さく呟いた。 相葉は黙って滝沢の声を聞いていた。 そっか・・・翼君も殺されたんだ。 同じ・・なんだ・・・ 滝沢君も悲しいんだ。翼君殺されて・・・ 俺も同じだよ。大野君殺されて・・俺の身代わりに・・・ 友達死ぬくらいなら自分が死んだほうがずっとよかった。 そのときだった。 ピッといういやな音が首から発せられたのは。 二ノ宮と相葉はお互いのそれを見詰め合った。 大野のときのようにそれは点滅する光と共に、機械的な音を出して爆発の予告を告げ始めた。 やばい・・・。 そうだ禁止エリアにまだいたままなんだ・・・。 相葉は、二宮が恐怖の色を浮かべたのをその目に認めた。 二宮の顔が教室で見たあの大野の表情と重なった。 夢じゃない。 これは・・・夢なんかじゃない・・・。 相葉は自分のからだを激しく襲う痛みと共に、その首輪の音に悪夢のようなしかし、決して夢ではない現実を突きつけられた。 しかもそれは一刻の猶予も許されないということを。 「ニノ・・・。おまえは生きろ。もう誰も仲間失いたくないんだ、俺!」 相葉は静かに、そして強く二宮の腕の中で言った。 二宮は涙を流して頷いた。 「うん。でも相葉ちゃん・・・相葉ちゃんも一緒に生きるんだ」 「いや・・・俺、滝沢君と話してみるよ。 だからニノは先行け。俺は後から必ず行くから大丈夫だ」 「でも・・・」 滝沢君と話す?何言ってるんだ相葉ちゃん・・・後から来るってそんな体でムリ・・・ 二宮が戸惑いながら相葉を見つめる。 ピッピッピッという音が、急かすように二人の首輪から鳴り続けている。 相葉は二ノ宮の腕から自分のからだを離して笑顔になると、しばしその顔を見つめ 「いけーーー!!ニノ!」 と叫びその背を押しやった。 あいばちゃん! 相葉の声に二宮は走り出した。 相葉の想いに後押しされるように。 これでいいんだ・・・。 背中から腹部を貫通している傷から大量の血が流れていて、意識が朦朧としている相葉の目に、二宮の後姿が揺らいで見えた。 ピッピッピッピ・・・と、音の鳴る感覚が少し短くなった。 「こんなとこにいたのか」 相葉は顔を上げた。 自分を見下ろしている滝沢のからだが、月明かりを受け、血と思われる赤黒い色に染められているのが確認できた。 「俺はおまえだけは絶対に許さない・・・」 翼を殺し、俺を裏切ったおまえを許すわけにはいかないんだ! 滝沢の相葉への憎しみは、復讐を果たす一心で歩き続けているにつれてさらに膨張を続けていたが、標的を目の前にした今、ついにその臨界点を超えた。 滝沢はゆっくりとボウガンを相葉に向けた。 ああ、翼君を俺が殺したと思ってるんだ・・・。 「滝沢君・・」 相葉は困惑しながらも優しい微笑を滝沢に向けた。 それはいつも自分に向けられていた相葉の笑顔だった。 しかしそれだけに親友の死んでいた姿を思い出した滝沢の胸に、どっと悲しみが押し寄せた。 「笑ってるんじゃねぇ!この人殺し!!」 耐え切れない悲しみに心を支配され、ぐっと指に力を込めた。 相葉の胸に「人殺し」と滝沢が叫んだ言葉がナイフのように突き刺さった。 人殺し・・・ 確かに、そうなんだ・・・ 大野君は俺が殺したんだよ・・・ 俺がわがまま言わなかったら大野君は死ななかったんだし・・・ みんなをこんな危険な目にあわせることもなかったんだ・・・ 俺のせいだ・・・ 本当にごめんな・・・ なー大野君 俺、もうそっちいったらわがまま言わないから・・・ また、友達で・・・いてくれる・・・? 相葉の瞳に大野が笑って頷いた顔が見えたような気がした。 ありがと・・・大野君――― 相葉は、ボウガンの矢を真っ直ぐにこちらに向けている滝沢の、悲しみに打ち震えている姿を見ると静かに目を閉じた。 そして次の瞬間。 空気を切り裂く音がすると同時に、相葉のからだは鋭い痛みに支配された。 相葉は何度か痙攣を繰り返したが、それが徐々に治まるとやがて安らかな時を向かえた。 ピッピッピッ・・ピッ・・・ピッ・・・・・・ ピッ・・・・・・・・・----------- 相葉の首の光が消えたと同時にその音も止んだ。 翼の仇をうったんだ・・・俺は・・・俺は・・・! 翼・・・翼―――!! しかし滝沢の首輪は鳴り続けている。 その音は、刻々とタイムリミットが近づいていることを告げていた。 ピッピッピッピッピ・・・ 滝沢はぎょろりと首輪に目を向けて、それを掴んだ。 「う、うわああああああああーーーーーーーー!」 額に穴が開いて絶命していた翼。 たった今目の前で崩れた相葉。 そして首輪から鳴り響くこの音。 大野と同じように首が飛ぶ自分を想像すると、もうどうにもならないこの状況に我を忘れ発狂した滝沢は走り出した。 ピッピッピッピッピッピッ ピピピピ・・・ 首輪から発する音がさらに速くなった。 突然、滝沢はハッと我に返った。 まだ、闇に包まれた心のままで。 滝沢は彼方に見える、二宮と思われる黒い小さな影を追うように駆け出した。 「冗談じゃないよ・・・死ぬなんて!」 松本は傷ついた櫻井を背負って、エリア外に出ようと懸命に歩いていた。 もう首輪の音が早くなってきていた。 しかし、気があせるばかりで思ったようには進めない。 「松潤・・俺置いていけ」 苦しそうに喘ぎながら櫻井が言った。松本は思わず立ち止まる。 「ばかいってんじゃねーよ」 「だって・・・」 松本が背にいる櫻井に振り返った。 「この借りはちゃんと返してもらうから、後で焼肉おごれよな!だからほら行こうぜ! 絶対助かって見せるからさ!」 わざと明るく言い放つと、櫻井を背に走り出す。 絶対死なせねー。死んでたまるかよ! しかし願いも空しく、首輪の音が速くなり始めた。 ピピピピピ・・・ うそだろ!うそだろ! 大野の最期がフラッシュバックする。 砂に足をとられて思うように走れない。 松本は何度か転びながらそれでも懸命に櫻井を背に走った。 「松潤!」 不安げな櫻井の声に返事をする余裕も今はもうなかった。 心臓はバクバク音を立て、頭はくらくらしていた。 喉がからからで、足はもつれて悪夢の中で怖い魔物に追いかけられているときのようだった。 どんなに走っても走っても、ちっとも前に進まない。あのいやな感じ。 ピピピピピピピ・・・ 「くそぉーーーー!」 夢魔から逃れるかのように懸命に走る松本の目に、前方に見える人影が写った。 あ、あれはー・・・ ニノ? よかった、もうすぐだ あそこまで行けば あそこまでたどりつければ 助か・・・ ピッ ピ―――――――――― え・・・なん・・ バアアアアアアン!!!! 願いはむなしく無情にも松本の首は吹っ飛んだ。 そして、松本の後ろで同時に櫻井の首輪もまた、爆発した。 バーーーン!!!! 後ろの方ですごい音がした。 二宮は思わず自分の頭を触ってその感触を確かめた。 「あ・・・おれ・・・生きてる・・・?」 辛うじて禁止エリアから抜け出したのだ。 しかし後ろで鳴った爆発音は・・・ まさか・・・! ゆっくりと二宮は振り返った。 潤君! 翔君! 「いやだあああああー!!!」 ニ宮は信じられない光景を見て激しく首を振った。 大野のときのように、仲間の首が飛び、首のないからだが棒のように倒れている、おぞましい光景。 「潤くん、翔くん・・・」 うそだよ・・・ なんで! 約束したのに! ずっと嵐だって!!ずっと・・・みんな・・・ おっ、オレだけ・・・生き残った・・・? 相葉ちゃん・・・相葉ちゃんは・・!? 相葉の怪我の状況からいって、彼が禁止エリアから抜け出したとはとても思えなかった。 「ぐわあああああ!」 獣のように叫び声をあげるとニ宮はわけもわからず、がむしゃらに走り出した。 こわい、こわい、こわい 今ニ宮の心を支配しているのは悲しみに彩られた恐怖一色だった。 はぁはぁはぁ・・・ しかし力尽きるとついに砂の上にうつぶせに倒れこんだ。 砂がじゃりっといういやな音を立て口の中に入り込んでも、うつぶせたままでニ宮はしばらく動こうともしなかった。 と、砂を踏みしめ近づいてくる足音に気づいた。 顔だけ上げて見ると、月の光を浴びてくっきりとその形を砂地に浮かびあがらせている黒い人影が目の端に写った。 「ニ宮」 ニ宮は両腕でからだを支え上半身だけ起こしたが、立ち上がれずぺたんとそこに膝間づいた。 「滝沢くん・・・」 冷たい瞳の滝沢がそこにいた。 彼もまたかろうじて禁止エリアを脱出したのだった。 二宮は絶望に打ちのめされ唖然と滝沢の顔を見上げた。 「だめじゃん、友達見殺しにしたら。相葉置いて逃げたでしょ。 悪いけど“コレ”で死んでもらったよ」 皮肉じみた口調でそういうと相葉を撃ちぬいたボウガンを掲げて見せた。 滝沢君、相葉ちゃんを・・・? 相葉ちゃん、動けないってわかってたのに・・・ 俺が置いて逃げたから 殺された・・・俺のせい、で・・・ ――後から必ず行くから そう言った相葉の顔が蘇る。 相葉ちゃん、そう笑ってオレの背中押したんだ・・・・ 「まぁ、お陰で翼の仇打てたけどさ」 がしっ !? 二宮がいきなり立ち上がり、滝沢の腕を掴んだ。 思わずひるむ滝沢。 「そうだ・・・相葉ちゃんが・・・相葉ちゃんが翼君殺したってなんだよ・・・!」 二宮に詰め寄られ思わず後ず去ったものの、カッとなった滝沢は、触るんじゃねぇと言わんばかりにその手を振り払い怒りをぶつけた。 「・・んっだよ!!何も・・・くそもねぇよ!!あいつが翼殺したんだよ! 無抵抗の翼を!背中と額に銃を撃ちこんだんだ!!見たんだ!見たんだよ俺は! 銃声の後にあいつが通り過ぎるのを!」 額を撃ち抜かれた今井の顔に、わずかながら残っていた温もりが掌によみがえった。 滝沢の目に涙が溢れ出した。 「相葉ちゃんが・・・銃で翼君を・・・? そんな・・・ありえないよ!!! 滝沢君、相葉ちゃんと、だって友達だろ!?なんで信じられないんだよ!」 すぐさま二宮が滝沢の言葉に反した。 「黙れーーーっ!!お、お前ももう死ねよ!!」 ボウガンを投げ捨ててまた拳銃に持ちかえ、滝沢は真っ直ぐに銃口をニ宮に向けた。 しかし二宮は今度は逃げようとしなかった。 まるでその表情はすべてを悟っているかのような穏やかなものになっていた。 なんだ? 二宮の様子に滝沢は不可解な顔をした。 「なんだよ、抵抗しないのかよ!」 「オレは・・・信じてるよ・・・トモダチのこと」 二宮の潤んだ瞳が優しく微笑んだ。 「オレ、嵐でよかった・・・みんなのことやっぱ愛してるし」 涙をぽろぽろこぼしながらニ宮はそう言う。 このとき二宮は、自分の命を捨ててでも友達を守ろうと最期についた相葉の嘘に、ただ純粋に共鳴することが出来ていた。 自分のせいで相葉が死んだのではないこと。 守りたいものがそこにあったからだということ。 そしてそんな暖かい心を持った友を、最後まで信じることが出来る自分。 最高の仲間がいつも周りにいてくれたことに、二宮は改めて涙した。 あはっ。 みんな・・・大好きだよ・・・ 無意識のうちに二宮はこの上ない笑顔になっていた。 信じてる・・・ その言葉は滝沢の心を鷲掴みにした。 二宮が言ったそれは、とうに自分自身がもぎとった感情だった。 唯一このゲームで救いになるはずだった、今は失った気持ち。 それをまだ守り続けている二宮。真っ直ぐな心で。 だけど。 「なにが信じてるだ?虫唾が走るんだよそんな言葉安っぽく使いやがって! 愛してるだ?おまえを信じてた仲間置き去りにして、見殺しにしたおまえにそんな言葉語る資格なんてねーんだよ!!」 相葉を見捨てたんだろ!仲間を置き去りにしたんだろ! 相葉に復讐を果たした滝沢だったが、何故か同時にその相葉を見捨てた二宮に怒りともいえる感情が込み上げていた。 滝沢は混乱していた。 信じてる そう言った二宮の言葉に、捨てたはずの感情を狂おしいほどに求めている自分が呼び覚まされ、自己矛盾にからだじゅうが悲鳴を上げ始めていた。 けれど、もう戻れるはずもなかった。 まるで傷口から血がどくどくと溢れ出しているような痛みに必死に耐え、かろうじてその思いを振り切る滝沢。 そんな滝沢を二宮の微笑が捕らえた。 なん・・・っで、何で笑っていられるんだよ・・・! わかってんのか?死ぬんだぞ!それなのになんでっ! なんだよ、お前ら・・・俺だって・・・俺だって・・・! 俺は・・・ 翼のために戦ってるんだーーー!! 滝沢の怒りとも悲しみもいえない感情が弾けた。 バンッ 衝撃を全身で受け止めると、それが自分のからだを貫通し、赤い血が吹き出たのを不思議な気持ちでニ宮は見た。 膝からその場に崩れ落ちる。 「ありがと・・撃ってくれて」 その言葉にまたも滝沢は怒りを覚える。 バン バンと 続け様に撃った。 どう、と二宮は砂にくちづけて倒れた。 滝沢は倒れたニ宮に向かって尚も撃ち込もうとしたが、弾はもう出なかった。 しかしそれにもかかわらず引き金を引き続ける。 くそくそくそ! なんでこんなに腹が立つんだよ! 憎悪の感情だけに包まれた滝沢は弾の出ない拳銃を地面にたたき付け、悪態をつくとニ宮に背を向け歩き出した。 あぁ・・・いてぇ・・・いてぇよ・・・ からだが熱い・・・ 火箸でもつっこまれたかのような様な痛みに二宮は必死に耐える。 ニ宮のからだに空いたいくつもの穴から鮮血が噴出していた。 あまりの苦しさに息すらできない。 ごめんな。みんなを置いて先に逃げちゃったバツだな。 だけど気が遠くなる。 なんだかいい気持ちだ・・・ もうすぐだ。 もう苦しまなくても、悲しまなくてもすむ・・・みんなんとこに行けるんだ。 おせーよニノっ そんな風に笑って迎えてくれるかな? それとも自分だけ逃げやがって・・って飛び蹴り食らわされたりするかな? オレ嵐でよかったよ・・・ほんとに・・みんなと会えて幸せだったよ・・・ 翔君、潤君、相葉ちゃん、大野君・・・ みんなの笑顔、まだ思い出せるよ・・・最期に思い出せる顔が笑顔でよかった・・・ 二宮の目に滝沢の背が遠く揺らめいて見えた。 滝沢くんも悲しいんだよね・・・ でも翼君殺したの・・・相葉ちゃんじゃないよきっと・・・ だって俺たち仲間じゃんかよ わかるだろ・・・ 相葉ちゃんが翼君殺すわけないってさ・・・ 最後の力を振り絞ってポケットの中でニ宮の指がそれに触れた。 なあ・・滝沢君も・・いこう・・・ 俺たちと一緒に・・・ 皆が待ってる場所へ・・・ そしたらもうこんな殺し合いしなくて済むんだ・・・ そして、もう感覚のない震える指でそのピンを引き抜いた・・・ 天国いけたらさ俺たちまたダチに戻れるよな? ボンッ ニ宮が投げつけた手榴弾が爆発した。 振り返った滝沢の目に最後に映ったものはなんだったろう。 それに答えるものは誰もいない。 滝沢の胸のペンダントだけがその全てを写していたが、冷たく青白い月の光を反射してきらきらと舞い上がると、静かに夜の黒い海へと吸い込まれていった。 【 相葉雅紀 松本潤 櫻井翔 ニ宮和也 滝沢秀明 死亡 残り14名】 「せんせ!嵐が全滅したよ!せんせってば!ちょっと何眠ってるのよ!」 ああ・・? と、からだを揺さぶられた男が目をこすりながら、慌ててソファからずり落ちた上半身を大儀そうに立て直した。 「え?寝てた?ぼく?」 「もう〜最高にいいシーンだったのに!!思わずあたし泣いちゃったぁ」 額にたれている前髪をなでつけながら、目をうるうるさせてなよなよ男が言うのを、不快そうに顔をしかめ男は 「高橋君起こしてくれればよかったのに」 相変わらず手にしたリモコンを忙しく操作している黒尽くめの男に言った。 「いや、先生はよく国会でも居眠りなさりながらお仕事するのが得意だから、声かけるの遠慮させて頂いたんですけどね」 皮肉たっぷりな言葉を吐き、高橋はにやっと笑うとまた画面に見入った。 「こうゆう展開になるとは思わなかった〜滝沢君も逝っちゃったし・・もう〜でも最高〜先生見逃しちゃったみたいだけど、これちゃんと録画されてるから大丈夫だからね心配しなくても」 と1オクターブ高い声でしゃべり続ける男に 「うるさいよおまえは黙れ!」と高橋が罵声を浴びせた。 「そうだよ。吉原君、寝起きに響くんだよ君の声は・・・」 と国会議員も続いた。 「やだもう二人とも!なによそんな言い方しなくても!ひどいじゃないっ!」 プリプリ怒りながらも、全く意に介してない様子で、吉原と呼ばれた男は議員にからみついた。 「そうだ!もうみんな。夜はまだこれからなんだし、ゲームはこれからもっと盛り上がるんだから、これ飲んで朝までオールしましょうよ。ね、せんせ?」 とテーブルの上のブランデーを氷のはいったグラスに注ぎ、それを渡す。 「ほら、あたしたちのこの素敵な夜にカンパーイ」 カチンとグラスを交わした音に議員も満足そうに、それを口にした。 「今度寝たらちゃんと起こしてくれよ」 「まかせて せんせ!」 とウインクした吉原に議員は、やれやれ・・というような顔をした。 |
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