11 告白

… 2004年6月1日 23:45


「あほやん・・・狂っとる・・・」
ゆっくり回る観覧車の中で、剛はすぐ目の前に見える掲示板の名前を眺めていたが、大きなため息をつくと、頭を振ってじっと足下を見つめた。

―――正直しんどい―――

ホントに仲間同士で殺し合いしとるんや・・・
それでも自分はのんきに遊園地の観覧車に揺られているだけだ。

遊園地に着いた剛は、遊園地自体が生きていて、全ての乗り物が無人のまま規則正しく動いているのに不気味さを感じながらも、ジェットコースターは嫌いやけどこれやったら・・・・と、丘から見えていた観覧車の個室に乗り込んだ。

見つかったらヤバイかもしれんけど、見つからんかったらここが一番安全そうや。
誰もこんで。
お願いやから・・・

ただそれだけを願ってこれまで過ごしていた。もう何十回観覧車は回ったかわからない。
すでに時間の感覚さえ狂い、狭い空間の中でまっすぐ立ち上がることも出来ず身体の節々が痛み始めていたが、下界に降りる気にはなれなかった。

もしも、誰か殺意をもったやつがきたら、殺さなあかんのかな・・・

日本刀を鞘から出して見る。
夜の闇の中で、幻想的な光を発している遊園地の数々の乗り物と電光掲示板の明かりは、まるでここだけが唯一パラダイスだと、その存在を島にいる仲間たちに訴えるかのように光り輝いていた。
その光にきらめく刃。
それはあまりに綺麗で、孤独すぎた。

 

その観覧車の下を通り過ぎた二つの影があった。
ジェットコースーター乗り場の階段の上に腰掛けて、二人は下を見下ろした。

嵐と滝沢君死んじゃったよ・・・
ああ・・・

今きらりと光りながら西の空に落ちていった星が、嵐や滝沢の命なのかもしれないと岡田は思った。

「あいつらも戦ったのかな・・・」
「どうだろうな・・・」

そんなふうに色々思いをめぐらしながら2人は会話を続けた。


「なあ、でさ。武器奪うって無理じゃない・・・?」

岡田が隣に座って空中に足をぶらぶらさせている秋山に、ため息混じりに言った。

「・・・・・」

秋山が何も答えないのは、武器を奪おうと言い出した秋山自身も、今はそれがそう簡単にはいかないことに気づいているからだろうと岡田は思った。

二人があちこち移動して、歩き見つけた今井の死体の側には確かにバッグは落ちていたが、中に武器は入っていなかった。

岡田は今井の死体をよく見ることができず、今井の側に放置されているバッグに近づくことすらできなかったが、秋山がそれを持ってきて中を開け
「食料と武器ないや。きっと翼君殺したヤツが持っていたんじゃないかな・・」
とがっかりしたようにバッグを地面に投げつけたことを思い出していた。

当初は秋山の言葉に同意したが、仲間の死体を初めて目の当たりにして頭がパニックになっていたことに加え、今井の死体を見ても平然としていた秋山に驚き、正直武器どころではなかった。
そしてそれからも歩き回っていたが、生きている仲間から武器を奪うチャンスもなく、結局何も手に入れずここまで来てしまっていた。

明るいライトが点滅している遊園地が、暗い夜の中にくっきりと浮かび上がるように光り輝いている。

ぼうっとした頭で岡田はそれらを見ながら
「坂本君の死体ってさ、どこにあったのよ?」
と言うと、秋山は、あー・・・どこだっけ・・と曖昧に言葉を濁した。

見てもいない坂本の死体を見たといったため、秋山は突然の岡田の質問に言葉に詰まっていた。
「坂本君の荷物は見なかったの?」
別に秋山を疑うわけでもなく、さらに聞いていた。

岡田は、秋山が坂本の武器を取らなかったのは、やはり最初に見た死体にそんな余裕もなかったのだろうと思ったし、改めて確認しに行こうと言わないのは坂本と同じV6の自分をその死体に会わせるのは酷だと思っての秋山の優しさだと都合よく解釈していた。

しかしやはり、荷物はさておき冷静になった今、坂本の状況をもう一度聞きたくなっていた。

「坂本君どんな感じだったの・・?」
「・・・・ハァ。」

答える代わりに、秋山は暗い面持ちで深いため息をついた。

「ごめん・・・」
岡田は思わず悪いことを聞いたような気がして謝った。

そうだよな・・・秋山だって平気であるはずがないんだ・・・一番最初に見た坂本君の
死体にはきっとショックだったに違いないよね・・・。


二人の間に妙な沈黙が流れた。
風が冷たく肌を突き刺す。夜も更け気温もかなり低くなっていた。
ここよりもっと風を防げる場所に行こうかと岡田が考えていたとき
「あのさ」
沈黙を破り秋山が岡田に強い光を放つ瞳で話し出した。

「なに?」
岡田はじっと秋山の瞳の奥を覗き込んだ。

「もしさ・・・誰かに殺されそうになったらどうする?」
秋山は岡田から目を反らすとじっと自分の右手のひらを見ている。

「殺されそうに・・・」

岡田は絶句して、そんな秋山の手のひらを見るともなしに視線を這わせた。
そこには新しい傷と思われる、長い線が痛々しく走っていた。

「秋山その傷・・・」
岡田の言葉に秋山は手のひらをかざすように空に向けた。

「虫取り網でもさ、戦う?」
岡田は自分がまだ持ち歩いてるそれに目をやった。

「これで!?」
冗談だろ・・・と岡田は軽く笑った。
秋山もそれにつられた様に笑ったがまなざしは冷たく、下ろした自分の手の傷をまた見ていた。

「じゃないとさ、さっき見た翼君みたいに殺されちゃうかもしれないだろ?仲間にさ」

まさか・・・
岡田は秋山の手の傷をもう一度見ようと顔を近づけた。

「俺さ。殺しちゃったんだよね松岡君を」
「!」

岡田は驚きのあまり声も出せなかった。

ほんとに・・・
松岡君を?
何故?秋山が・・・

今まで考えもしないことと、その名前に岡田は、ただ秋山の顔を呆然と見てるばかりだった。
「松岡君がさ・・襲ってきたんだよ。だから俺夢中でさ松岡くんが持ってたナイフで。ほんとはやる気なんてなかったんだけどさ・・・」

無人のジェットコースターがコースを1周してスタート地点まで戻ってきた。
秋山の声が、ガタガタというレールと車輪の摩擦により発生するノイズにフェイドアウトしていった。

「秋山・・・」
「だからさ・・・ホントは坂本くんなんて見てないんだ。嘘ついてごめん・・・」

岡田は「うん」と答えたもののそれ以降、何を言えばよいのかわからず黙りこんだ。


「あ、そうそう。」
秋山はしばらく顔を下に向けていたが、ごそごそとバッグの中をまさぐってペットボトルと例の武器を取り出した。

「松岡君の水持ってきたんだ。だから二つペットボトルあるから」

そして、ひとつのペットボトルに例の毒と思われる液体を注ぐと、きつくキャップを閉めた。
それをまだ中身の残っている小瓶と一緒に、自分のバッグにしまいこむ。

「これ俺持ってるからさ、間違うと困るから水の方は岡田のバッグに入れといて」
と秋山は岡田にただの水の方を差し出した。

岡田は何も言えずそれを受け取った。

誰も乗ることのない空のジェットコースターがコースを走り出し、急な角度を上りだしている。

「なー軽蔑した?俺のこと」

秋山が悪びれず笑顔を見せると、岡田は自分の気持ちを整理できないまま曖昧に首を振った。


ジェットコースターが頂点で一度止まった。

少しの間をおいて、ガタン。

一瞬浮き上がるようにその車体を闇の向こう側へと躍らせ、コースターはすさまじいスピードで下へと落ちていった。




Next Page >>