12 再会

… 2004年6月2日 00:00


松岡・・・松岡・・なんでなんで・・・。
山口は松岡の死を知り、絶望的な気分で長瀬を待っていた。

あれからひた歩きに歩いて、長瀬に呼びかけた約束どおりに南に位置する小さな神社についたものの、先に出たはずの長瀬はいないし、人の来る気配が全くない。
ここには松岡の死を悼み合うものもいなく、ただ一人で孤独と絶望に耐え続けているのにも、すでに限界がきていた。

遠くに見える掲示板の名前を、5分おきにチェックしてしまう。
そしてその度に、最初に表示された松岡以外のトキオのメンバーの名前が表れていないことに胸をなでおろす作業を繰り返していた。

どうなってんだよ・・長瀬。
どこにいるんだ?もしかして何かに巻き込まれているのか?
もしそうだとしたら・・・。

うろうろと神社の周囲を歩いているのにもさすがに疲れて、本堂にあがりこんだ。
言い知れぬ不安が胸の中に積もっていき、真っ暗な本堂の中を歩き回りながら思いを巡らせているとあれこれ悪い方向に想像は膨らんでいく。

オレがここでこうしている間にたくさんの仲間が死んだ・・・。
1回目の放送ではすでに4人の名前が呼ばれた。
そして今度は嵐に滝沢・・・。
どうなってんだよ!みんなおかしくなっちまったのか!?

松岡の死に、自分の身がひきちぎられるような悲しみに耐えていた山口だが、自分より若い後輩たちが次々に死んでいることに、叫びだしそうなほど昂ぶってきた感情を懸命にこらえていた。

うう・・・
声にならない声が漏れ、憤りとやり場のない悲しみに山口はがっくりとうなだれた。

太一はどうしているだろう・・・教室にいるとき、いつから様子がおかしくなったのか・・・。
苦しみの中で山口はまた思い返していた。

茂くんどうしたかな・・・。
みんな一体どこにいるんだろう。
後どのくらいここで待てばいいのだろう。
果たしてここにいて、みんなに会えるのだろうか。
また例え会えたとして、それから
オレはどうするつもりなんだろう・・・
そう、生き残れるのは一人だけ・・・

考えれば考えるほどわからなくなってくる。


はーっとため息をつくと山口はどっかりと床の上に座り込んだ。
「ここにいてもしょうがねえな・・・」
そんな言葉がつい出てしまったことに自分でも驚いた。
だけどもし長瀬もここに向かってきていたら・・・

やっぱりもう少し待っていようか・・・と堂々めぐりで行動が決まらない。

ガタッ

突然、表の方から侵入者を知らせる音が響いた。
びくっと肩を震わせ息を殺す。

誰か、誰かがここへ?
な・・長瀬?と、思い切って声をかける。
しかし返事はない。

「長瀬だよな?」

そう呼びかけながらも山口は冷や汗が流れるような思いで、そっと自分の武器に手を伸ばした。
音のした方、入り口の方へ向かって、その体に似つかわしくない足音を忍ばせた歩き方でそろりそろりと近づく。
と、その人物は暗闇から姿を現した。


「よっ」
「リーダー!」

緊張がとけると山口はなあんだと気の抜けた声を出し、バットを放り出すと駆け寄った。
相変わらずのひとなつこい顔で城島はその肩を叩く。
もう何日も会ってなかったような懐かしさに、山口はしみじみと城島の顔を見つめる。

「どないしたんや。なんや気色悪いな」

山口をわざとからかうような口調も普段どおりのままだ。
こんな馬鹿げたゲームの中でも変わらない笑顔に、山口はこのゲームが始まってから初めて和んだ気がした。

しかし、うれしい再会を喜び合う気持ちは長くは続かなかった。

「松岡が・・・・それにほんまにたくさん死によった・・・」

城島が口にした名前に、張り詰めていた糸が、ぷつんと音を立てて切れた。
山口は同じ悲しみを共有している友の胸にすがりいた。
声を殺して泣く山口を、城島は子どもをあやすように、自分よりも大きなその体を抱くと、ぽんぽんと背中を叩いた。

ひとしきり泣いて落ち着くと、照れたように山口は体を離して座り込んだ。
城島もその隣に腰を下ろした。
長い時間が過ぎたような気がした後、城島は静かに口を開いた。

「ここに来るまでの間に坂本の死体も見たんや・・・」

虫の鳴き声、風が草を揺らす音、月明かりが柔らかく差し込む夜の中で、静かにその声は響き渡った。

「太一が・・・」

ためらった果てに山口が言った名前に城島は何も言わなかった。
闇の中でその表情は見えない。

ややあって
「太一。探さなな・・・」
信じたい。そんな思いがこもっている声がした。

「長瀬、ここに来るんか?」

姿勢を崩した城島に山口は首を振った。

「わかんない・・・待ってたけどもう来ないかもしれない」
「そやな・・・」

城島は軽く頷いて手元に落ちていた金属バットを拾い上げた。

「これが武器かぁオレのはこれや」
とバッグから取り出すと山口に見せた。

「探知機や。これ見てて、動かない点があって気になってな。近くだったから来てみたら
おまえやったのは運がよかったな・・」

見ると画面には島のマップが表示されていて赤い点々があちこちに見えた。
それは止まっているのもあれば移動しているのもある。
この赤い点が?

「みんなの位置やろ」

ここに2つの点があるやろ。これが俺ら・・・、と南に位置している赤い点滅を指差す。
山口は食い入るようにレーダーを手に取り見つめた。
数えてみると光の数は14個。
生き残っている14人が小さな画面の中でその存在を懸命に訴えているように見える。
南東側や中央付近、遊園地がある付近など各所に、ひとつだけの点や同じ位置で光っている複数の点が散らばっていて、止まっているのもあれば移動しているのもあったりと、それらの動きはさまざまだ。
自分たちの場所からさほど遠くないところに止まっている赤い点が見えたが、位置はわかっても誰かまではわからない。

「武器って言うか・・・武器じゃないし」
山口がふてたように言うと城島がぷっと笑った。

「ほんまやな。これと金属バットじゃなあ・・・」
おどけた言い方に思わず山口もつられて笑う。

笑ってる場合じゃないのに、信用できるメンバーに会えて精神的に余裕ができたせいだろう。
同じことを考えていたのか城島も、「こんなんなっても笑っとる俺たちって・・・。」と口の端を緩めた。


仲間を失った苦しみと、殺し合いのゲームをしないといけないという非現実的な現実から、笑うことで一瞬でも遠ざかることができると思っているかのような、深い悲しみを内包したそれは微笑だった

「なーこれからどないしよ?」
「ん・・・」

自分が聞きたかったことを先に相手に言われてしまい、山口は口ごもった。

「茂くんはどうするつもり?」
答えられず逆に聞き返すと、そやなーと小さくつぶやいた。

「とりあえず一眠りしよか。オレが外見張ってるから先に少し寝とき」
思いがけない提案に山口は少し考えてから同意した。

確かに今二人でいる間に少し眠っておいたほうがいいのかもしれない。
目覚めてからまた考えてみよう。

「じゃあ朝の5時になったら放送も始まるし、そんとき交代でな。レーダー見とるからなんかあったら起こすから安心して寝とき」

ありがたい申し出に断る理由はない。
山口は横になるとバッグを枕にし、睡眠をとることにした。

 

診療所では手術を終えそのままベッドで眠っている長野の隣のベッドに、長瀬が横になっていた。
眠るわけにもいかず暗闇の中で懸命に睡魔と戦っていると、コツン、という隣の待合室の窓ガラスに石が当たる音がした。
長瀬は、はっと身を硬くした。

誰かが外にいる・・・
長瀬は長野の怪我を思った。

まだ動かさないほうがいいに決まってる。
長瀬は診察室のドアを静かに閉め部屋を出た。
音がした窓のカーテンの隙間から外をうかがう。
窓の外は闇。緊張感が高まる。

誰だ?誰が・・・

月明かりが雲の隙間から漏れその人物の姿が現れた。

「光一!」

長瀬は思わず叫んでいた。

窓の外から光一が小石をぶつけていたのだ。
長瀬はカーテンを開け「中に入れ」と合図をする。
光一も驚いたように長瀬を見るとわかったと頷いた。


光一は井ノ原を連れてきていた。
待合室に3人が集まった。

「ろうそくとマッチがあったよ」

ごそごそと室内の中の物入れをあさっていた井ノ原が戦利品を手にすると、お〜すげーじゃんと長瀬が褒め称えた。

光一が棚の上に固定したろうそくに火をともすと、暖かな光りの輪がそれを見詰める3人の顔に深い陰影を落とした。
3人が長椅子に腰掛けようやく落ち着くと、隣の部屋で寝ている長野を起こさないようにと、長瀬が低い声で話し出した。

「よかったー無事だったんだ。光一おまえ傷の具合どうだ?」
「ああ、たいしたことないわ。これくらい」

光一は教室で怪我をした傷で、血で染められたシャツの腕をわざと高く掲げて見せた。

しかしすぐに下ろしたところを見ると、やはり傷は痛むのだろう。

「無理すんなって。俺が手当てしてやるからよ!」
「え〜!!まじで!長瀬が?おれまだ死にたくないって!!」

光一があわてて腕を抑えた様子に

「なんだよー失礼ジャン!」
と、長瀬が唇を尖らせた。

井ノ原もつられて笑い、互いの顔を交互に見比べると再会を喜びあった。


しかし、一呼吸おいた光一と井ノ原が、たった今掲示板に表示された嵐と滝沢の新たな死を告げると一気に場は重苦しい雰囲気に包まれた。

「なんでだよ・・・あいつら一体・・なんで死んじまってるんだよ!松岡君も死んで、坂本君も死んで!長野君まで撃たれて、まだ続くのかよ!」
「え?長野君?長野君撃たれたの?」

驚いた井ノ原が長瀬に問いかけた。

「実は、ちょうど長野君が撃たれたとこに俺が居合わせて、ここに連れてきて弾取り出したんだよ」

長瀬はちょっとためらいながらそう言い、長野が寝ている診察室を見た。

「まじで!長野君いるの!?大丈夫なの?」

井ノ原が長瀬の視線を追って診察室のドアに顔を向けた。

「ああ。寝てるから起こさない方がいいよ。腰に当たってさ・・まじやばかったんだよ。今は落ち着いてるけどな」

そうなのか・・・。
井ノ原がほっとしたように、長瀬に顔を向け
「ありがと。長瀬ありがと」
と何度も手をとり頭を下げた。

「いやー別にいいっすよ。そんなたいしたことしてないしっ」
照れくさそうに長瀬は頭をかいた。

「でもそれ誰が撃ったの?長野君を」
光一の質問に長瀬は一瞬とまどい、悔しそうに口をゆがめた。

「――マシンガン持ってるやつだよ。顔は見てない」
「またマシンガンか・・・」
信じられないというように光一が首を振った。

「顔見てないのか・・そいつは坂本君殺したやつだよ!今度は長野君まで・・誰だよ!そんな武器持って狂ったように仲間撃ってる奴は!」
井ノ原が怒りをあらわにし乱暴に床を蹴った。

騒ぐなよ。長野君起きちゃうだろ?と、二人にたしなめられ、あ、そうかと、井ノ原は首をすくめた。


それから静かに井ノ原は、自分が見てきたことを小さな声で語りだした。
坂本の死を。
それに続き長瀬も松林での出来事と、長野をここに連れてきて手術をした経緯、三宅が森田を探しに行ったことなどを報告した。

話が一通り終わると診療所はしんと静まり返った。

「狂っとる。こんなん絶対おかしいやん」
ぽつり、と光一が言い出した。
「なんで、なんでこんなことせなあかんのや。なんで、人殺し、それも仲間同士で
せなあかんのや」

それに答えられるものはここには誰もいなかった。

「なんでや。なんで中居君・・・・」

あんなにやさしかった中居がなんでこんなことをさせるのか・・・
誰も誰もそれについては知らないのである。


夜も深けたということで、これからのことは少し眠ってから考えようということになり3人は、戸締りをしたドアや窓の前にロッカーや机などでバリケードをつくった後、簡易ベッドや長椅子に寝転んだ。
長瀬はずっと長野の介抱をしてきて大手術までやってのけたせいもあり簡易ベットに横たわるとすぐに深い眠りについた。
井ノ原はしばらく狭いベッドをギイギイ軋ませ、寝返ってばかりいたがやがてすーすーと寝息を立て始めた。


反対に光一は目が冴えてなかなか眠れない。
ずっと考えていたのだ。ずっと。
どうすればいいのか、何をすべきか。何が自分にはできるのか。
それだけを。
この狂った世界で何か自分の役割が必ずあるはずだと考えていた。
そして頭の片隅にはいつも自分の相方―剛の存在が離れずにいた。

剛・・・どないしたらええんや。
やっぱ教室出たとき剛のこと待っとればよかった・・・。

あのときはただ、この不条理なゲームが許せなくて、そればかり考えてて剛を力づけることもできないでいた。

ほんま抜けとるなあ。あいつどこいったんやろ。誰かといっしょなんかな?それとも一人なんやろか?

剛・・・。

自分が無事に長瀬たちと合流できたのに、今もひとりで震えているかもしれない剛を思うと胸が痛んだ光一だった。




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