13 過ち

… 2004年6月2日 01:00


深夜の遊園地内を、左右を見渡しながら小走りで移動し、城を模した建物の中に入っていった者がいた。

それは、城の中を心理テストになっている 設問に答えながら進むと、出口で結果が書かれた用紙がもらえるというアトラクションだった。
真っ暗な城の中には、点々とハロゲンライトが規則正しく並び青く光っている。

迷路のような道を何度も曲がり国分はゆっくりと進んでいた。
細い通路を抜けると鏡張りの小部屋が開けていた。
そこはたくさんの小さなライトがぴかぴかと点滅していてかなり明るかった。

真ん中にはモニタがおいてあり画面から
「あなたの心のドアを開ける鍵をこの心理を映す水晶に差し込んでみてください。
全ての真実を教えてくれることでしょう―――」
と不思議な顔をした女が喋っていた。

国分はぎょっとしてその顔を見て、周りを振り仰いだ。

「誰もいないよな・・・」

林を抜けて寝床を探しここまで歩いてきた国分は、マシンガンを右手にしっかり持ちながら左右上下を見渡した。

鏡張りの部屋にそんな自分の姿がいくつも映っている。
鏡に向かって国分は笑ってみせる。
鏡の中の自分は悲しそうに顔をゆがめた。
その鏡の壁によりかかると国分は座り込んだ。

心身ともに疲れ果てていた国分は、ぼうっとした頭で今日のことを思い浮かべていた。
たった1日で全ての運命が変わってしまった。


すでに一人を殺害し、二人にも殺意を向けてマシンガンを撃った。
あの時坂本が倒れ死ぬ寸前に、一瞬自分の目と合った坂本の目が、今まざまざと蘇ってくる。

国分はびくんとからだを震わせた。
それは夢でもなんでもない。
全てが自分の手で引き起こした現実なんだということを、改めて胸に刻む。
俺のこの手は汚れていて取り返しはつかない。
もう二度と暖かいあの場所へは戻れないんだ。

次々と浮かぶ仲間たちの顔を振り払うように国分はじっと自分の手を見つめ、何度もそう言い聞かせた。

もう、戻れない・・・。
俺は、俺自身が選んだことをただやり遂げるだけなんだ。

そして、いつのまにか鏡の部屋で国分は眠っていた。
小さな子供のように、顔を膝に埋めて。

 

ジェットコースーター乗り場を移動し、秋山と岡田は近くのアトラクションの建物の中に入り込んだ。
その暗い中、ハロゲンライトが青く点々と光っている狭い通路に、二人並んで壁に背をもたせた格好で腰を下ろした。

「どうするんだよーこれから・・」

岡田の言葉に秋山は黙ったままだ。

「なんだよーなんか言えよ」

と虫取り網の先で秋山の足ををつつく岡田に

「・・んなこと言ったってさ〜・・あーやっぱ強い武器持ってるやつが殺してるんだろうな〜。このままじゃやばいよね・・」

ふてくされたように秋山が投げやりに言った。

「でもさ・・」
「でも?」

岡田が言いかけて言葉をためらったのに秋山が続きを促した。

「いや、なんでもないよ」

岡田がかぶりを振ると、なんだ?という顔をしたがそれ以上秋山も聞くことはせず、二人は無言になった。

恐い武器持ってないおかげで人殺ししなくて済んでるのかもしれないしさ・・・。
そう言おうとして岡田は、秋山が松岡を殺したという告白を思い出し、口をつぐんだのだ。

もう秋山、人殺してるんだよな・・・

そうっと横顔を盗み見るが、それは恐ろしい殺人者の顔ではなく相変わらず見知った秋山のそれと何一つ変わりあるものではなかった。

第一本人の告白だけで、現場を見たわけでもない岡田は、どうしても一緒にいる秋山がすでに殺人を犯しているとは思えず、その事実を自分の中で消化しきれていなかった。

でも、秋山がそんなウソを言うわけもないし、松岡君を殺したのは事実なんだろう。
それでも、秋山は自分を殺すつもりはないらしい。
今はとにかく一緒にいるしかないんだ。今は・・・

あれこれ考えていると

「なに?なんか言いたいことでもある?」
秋山が、不躾な視線を向けている岡田を彫の深い瞳で見据えた。

「ああ・・・はあ〜、ねえ奥に部屋ってあるのかな?」
岡田が、あわてて秋山の視線を避けて通路の奥の方に顔を向けそうごまかした。

「うん・・行ってみるか?ここじゃ落ち着かないしな」

秋山も気になっていたのか、すぐに立ち上がりそろそろと狭い通路を歩き奥の部屋と向かう、その後ろに岡田も続いた。

突然メインらしい部屋の入り口で立ち止まった秋山の背に、岡田は思わずぶつかりそうになった。

「って!」

秋山の背中越しに、中の様子を見て岡田は思わず声をあげそうになった。
あわてて口を手でふさぐ。

しーっ!
と指を口元にあてて秋山が険しい顔で振り返った。

太一君だ。
お互い目でそう確認し、頷きあう。

岡田は寝込んでいる国分を観察した。
右手から離れたサブマシンガンが床に置かれている。

「ど・・どうすんだよ!?」
岡田が秋山にささやいた。

すると、きまってるじゃねーかと言わんばかりに秋山は岡田の顔を見た。

まじで?あれ、マシンガン・・取るの?

胸の鼓動が高鳴りはじめた岡田はどきまぎと秋山を見つめ返した。

秋山は「大丈夫」というような自信ありげな笑顔で岡田を見た後、「これ持ってて」と自分のバッグを岡田に渡し、そろそろと寝ている国分に近づいた。

その様子を岡田は棒のように突っ立って入り口で見ていた。


もう少し・・もう少し・・
じりじりと秋山が音を忍ばせながら足を進め、ついにその手を伸ばせばマシンガンに届きそうなくらいに近づいた。

カチャ・・

少しの音を立てて、秋山の手が床のサブマシンガンを捕らえた。

岡田は息をひそめてそれを確認し、次に国分を見た。
しかし、国分は熟睡しているのか全く気づいてないようだ。

よし!いこう!

秋山が目で、その場を立ち去ろうと合図を送ってきたのを見て岡田は素早く、しかし足音を立てないように元きた道を戻りだした。
秋山も後ろから早足でついてくる。


建物の外へと無事に着くと、はあーと岡田は思わず声を漏らした。

「うわーすげーってこれ!」

岡田が秋山の手の武器をまじまじと見詰めた。

「すげー収穫だろ!太一君、これぶっ放して殺したのって坂本君だよね?ほら、最初にマシンガンの音聞こえたもんな」

秋山も興奮したように不謹慎なことをしゃあしゃあと言ってのけた。


ごくり。

岡田は思わずつばを飲んだ。
そうだ、あの音は太一君が撃ったマシンガンの音だったんだ。
その直後に坂本君の名前が表示されたということは・・坂本君をやったのは、太一君・・・。

しかしその衝撃的な事実より、秋山の手にしている目の前のずしりとした重量感のある武器が自分たちのものになったということに今は興奮を覚えていた。

でも、これをほんとに使うの?と秋山を見る。

「まあーそうだな。とりあえずここ出ないとな。太一君起きたら面倒だから」

歩きながら秋山が言ったことに岡田もとりあえず同意する。
園内を出ようと小走りで駆けていた二人だが、あ、そうだと岡田が立ち止まった。

「なに?」 
秋山が訝しげに岡田を見ると

「わりー俺ちょっとトイレ」
と岡田がトイレの建物を指差したのに

「早く行ってこいよ」
秋山がしょうがねーなと微笑した。

トイレの目の前で、岡田はまだ自分がバッグをふたつとも持っていたのに気づき苦笑した。
両方を入り口前に置いて中に入る。


あ〜あ!
緊張から解き放たれた秋山は思い切り夜空に向かって伸びをしてから、何気なく辺りを見回した。
噴水が目に入ると駆け寄り、その縁にジャンプした。

ダダダッと口でいいながら、360度向きを変えマシンガンを構え撃つ格好をしていたが、縁からずるっと足を滑らせ思い切りアスファルトの上に転倒した。

「どわっ!」

ってええ・・・
かろうじて手をついて、転倒のダメージを防いだものの、そのせいでマシンガンが手を離れ地面を滑っていってしまった。

うわ!やっべえ!

秋山が手をついた姿勢で立ち上がろうとした視界に、マシンガンを拾い上げる手が写った。

「おー岡田ー!わりい〜落としちゃったよ」

秋山がカッコわりーなと苦笑しながら立ち上がると、その手の持ち主の姿が闇の中できらめくアトラクションの照明に浮かびあがった。

!!!

秋山は夢でも見ているのではないかと錯覚した。

「た・・・たいちくん」

うそだろ!
なんで太一君が・・・

確かにマシンガンを拾い上げたのは岡田ではなく、今さっき奪ったその武器の持ち主の国分だった。

「あきやま〜」

国分がマシンガンを手に笑いながら秋山に近づいてきた。

「これさー秋山の武器?」
「え・・いや・・あの・・それはちょっと今・・」

しどろもどろになって秋山が目をしばたいた。

「ふーん?ちょっとなんだよ。偶然だよなー俺もさーこれと同じもの持ってたんだけど、今さっき無くなっちゃったんだよなぁ」

その物言いに、秋山は自分が取り返しのつかない大失態をしたことを思い知らされた。

やばい!
まじでやばい・・・

小刻みに震えだした秋山に尚もゆっくりと近づき国分はニヤニヤと笑っている。

「どうしたの?寒いの?秋山」
「ちが・・違うんですよ!それ・・俺は知らないんです!
岡田・・そう岡田が・・それ持ってたんですよ!なんかそれさっき見つけたとかいって・・」

咄嗟に岡田のせいにした秋山に国分がぴくりと眉を動かした。

「おかだぁ?」
「そ、そうすよ。あいつが・・・」

冷や汗を全身にかきながら必死で訴える秋山に国分が首を傾げた。

「岡田君いないね?どこいったのかな?」
「え・・・えっと、さ、さあ?あは・・はは・・・」

秋山も凍りついた笑顔のままで首を傾げた。

「じゃあさ、岡田に伝えてくれないかな?人のもの奪うのドロボーじゃん?て」
「ああ・・はいはいもちろん言っておきますよ。そうですよねドロボーはよくないですよね?ははっ」

ひきつりながらも笑った秋山は、国分が微笑み頷いたのを見て

「じゃ、じゃあ。僕はこれで・・」

と立ち去ろうとした背に国分の怒号が響いた。

「あとさーもうひとつ。これはおまえへの忠告〜」

ぎくりとして秋山は振り返った。

「ウソはよくないよー友達売るやつはサイテーだな」

国分の手のマシンガンが真っ直ぐ自分を狙っているのに気づき秋山は、ぎゃ!と悲鳴をあげ全速力で走り出した。


用を済ませトイレから出ようとしていた岡田は、秋山がいる場所にもう一人誰かいるのを見つけ、トイレの建物の陰から密かに様子を伺っていた。

「あれ・・あれは・・・」

太一くん!?
そのもう一人の姿を認め岡田は恐怖でその場から動けなくなった。

しかも、マシンガン・・・太一君が持ってる!!
なんでだよ!なにがあったんだよ。やっぱりバレて取り返されたんだろうか・・・。

ということは秋山はかなりまずい状況に立たされているというわけだ。

やばい・・やばいって・・・。

遠くから見ていると二人が何を話しているのかは全くわからないが、なんとなく和やかに談笑しているようにも見える。

大丈夫なのかな?

そう思って見ていると秋山が国分に背を向け駆け出した。

目を見開いて岡田が凝視していると、
「サイテーだな!」と叫んだ国分がマシンガンを持った腕を伸ばし、秋山に焦点を合わせている様が見えた。

その国分に振り返り悲鳴をあげた秋山が、すごい形相で走り出した。

あきやま!

声にならず心の中で叫んだ言葉に、秋山がまるで気づいたかのようにこちらを向いたその刹那。


ダダダダダダダ――----


マシンガンが唸りを上げた。

背中にしこたま弾を浴びて、秋山は死のダンスをする。
そして、ばんざいの形をしたままゆっくりと地面に倒れた。

その唇から最期の言葉がこぼれた。

「・・・松岡君のカタキ、とられたのかなオレ・・」

秋山が倒れたのを見ていた国分は

「おまえ今のダンス結構決まってたよ」

アハハ・・・
と乾いた笑い声をたててその場を立ち去った。


「マ、マジで・・・」
秋山が太一君に殺された。

その一部始終を自分は目撃したわけだ。

殺される!俺も殺される!
逃げないと!逃げないと!

岡田はトイレから出ると、国分のいる反対方向へと脱兎のごとく走り出した。

【 秋山 純 死亡 残り 13名 】

 

なんや・・・いまの音。
いまの音は・・・。

剛ははっと周りを振り仰ぐと、そこは相変わらず狭い観覧車のボックスの中だった。
いつの間にか眠っていたらしい。

あわててうずくまった姿勢から立ち上がり、窓に顔をこすりつけて下を眺める。

あれは―――岡田?

真下のストリートを走っていく岡田の姿が見えた。

なんや、どないしたんや・・
なにがあった!

遠くまで見渡してみると噴水の側の通りに誰かが倒れている。

あれは・・・誰や?
誰かが・・・殺された?

慌てて掲示板を眺めると、「秋山 純 死亡」の文字がたった今現れたらしく赤く光っていた。


胸が締め付けられたようにギューっと痛みだした。

どないしよ。どないしたらええんや・・・
光一、
光一どこや。
なあ光一オレはどないしたらええんや。
おまえどこおるん・・

剛はこの遊園地で起こった殺し合いから目を背けるように、座席から腰を外し下にうずくまり、いない光一へと問いかけていた。




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