16 裏切り

… 2004年6月2日 08:00


神社では山下が去った後、トキオのそれぞれが長瀬の死を知りただ悲しみの中で過ごしていた。
しかも程なく掲示板には森田の名前が表示され、さらに事態が逼迫していることに気づかされていた。
床に手足を力なく投げ出し山口が空を仰いだ。

「オレが、ここに来いって言ったから、あいつも来ると思ってたけど・・・」

もう待ってても長瀬、来ることないんだな・・・。
誰もそれに何も言えず、宙に浮いたその言葉。

「このゲーム始まってから一体何人死によった?なんでみんな殺し合いなんてしてんのか。オレにはわからへん・・・最後のひとりってなんなんや」

城島が怒りを隠せないというよりは、投げやりな様子でそう言った。


最後の一人になろうと戦っているもんがおる。
信じられへん・・・・。
けどそれが現実なんや。
現実に殺されてるもんがおるということは、殺してるもんがおるからや。
そして・・・それは確実に、生き残っとる誰かの中におるちゅうことや・・・。

得体の知れない恐怖に呑みこまれそうになっても、仲間といるうちは安心していられるはずだった。
しかし、ここにずっと隠れひそんでいられるという保証はない。
例えそれが出来たとしても、もう数時間も経つと待ち受けてるものは確実に死だけだ。
この3人が生き残るという可能性はゼロなのだ。
かといって殺す側に回り、自分が最後の一人になろうなどとはとても思えない。

「これからどないしよ・・・」

結局出てくる言葉はそれしかなかった。

太陽の光が東側の壁の窓から差し込んでいる。
だだっ広いこの本堂の中を舞っている塵に、それが反射すると、きらきらと輝いて見えた。
森の緑が、その窓に四角く切り取られていて鮮やかな一枚の絵のようだった。
しかしその景色の中に異質なものが混じっていた。
忌まわしいあの掲示板の存在だった。

もう、あまりにも人が死にすぎた。
そのたびに驚き悲しんできた山口だったが、その感覚すら今では麻痺してきているように感じた。
この瞬間にも島のどこかでまた誰かが殺し、誰かが死んでいっているのかもしれないと思うがどうすることもできず、ただ時間を消費しているばかりの自分に腹も立っていた。
かといってどうすることも出来ない。

「・・・もうだめなのかな」

山口がため息をつくと、急に国分が立ち上がった。

「黙ってても人死んでいくだけじゃん。茂君もどうしようどうしようってそればっかだしここに集まってどうするつもりだったの?」

その口調に含まれている棘が城島の胸を刺した。

「太一・・・」
「意味ないじゃん?こんなとこに隠れててもさ」
「おい、おまえ何言ってんだよ」

山口が不信感をあらわにして国分の顔を見た。

「いや・・・別に・・・」

国分は山口の顔を見ることもなく、そっぽを向くと立ったまま黙り込んだ。
太一?
山口の中でまた国分に対する疑念が頭をもたげてきていた。


やっぱあれが手元にないと不安だな・・・。
いつ敵がくるかわからないし。
長瀬も死んじゃったし、山口君と茂君の武器も大したもんじゃないって分かったし、もうここには用ないや。

よし!と思い右足を踏み出したとき、ピピピッという音がどこからかしていた。

みんなが一斉に音のした方に目をやった。
バッグの側に放置されていた城島の探知機が反応していた。

誰か来る!
3人の中に緊張が走った。


やばいって!やっぱあれがないと。

国分はそう思うや否や外に飛び出した。


「おい・・・太一!?」

山口が名前を呼んでいたが振り返ることもなく目的の物がある場所へと走り出した。
砂利を踏みしめ手水舎のところまで来た時

健・・・!

血だらけの三宅が鳥居の奥からこっちを見ているのに気づいた。
手にしているのはショットガン。

うわ!?

国分はたじろいだ。
後ろから追いかけてきた山口もその姿に言葉を失った。

本人の血か、誰の血かわからないが全身を真っ赤に染めた三宅の姿に、尋常じゃない何かがあったのだろうということは容易く想像がついた。

「健・・」

それ以上に三宅の異様な雰囲気に圧倒され、思わず声をかけたもののその先が出なかった。
森田の死に、三宅は強いショックを受けているのだろうか。

しかし、焦点の合わない目でこちらを見ている三宅は何も言わず、そのまま背中を向け立ち去ろうとした。

「なんだよ。あいつ・・」

国分は走って鳥居を抜けると、木の根元の茂みにかがみこみ、それを取り出した。

すると、背後から声がした。

「太一、それ!」

ちっ見られちまったか・・。

苦々しい思いで国分は振り返った。
山口がサブマシンガンを抱えている自分を見ていた。

しかたないなもうー。
「撃つ気なんてなかったんだけど本当は」

国分はマシンガンを構えた。

え?
どうゆうこと?
山口の目がそう訴えていた。

「だって仲間だし。撃つ気なかったんだけどね。でもどうせ疑ってたでしょ。
最初から。知ってたんだ」
「太一・・!」
「いいよ。俺疑われてたし。ごめんね。いまさらいい顔してもしょうがないしさ・・・。
さよなら山口君」

そうマシンガンを向けた国分に

「太一 ウソだろ?おまえがやっぱり坂本君を・・?他にも誰か殺したのか?」

悲痛の声で問いかけた山口の目が見開かれた。

「なんで・・・なんでだよ・・・た・・い・・ち!」


バラララッ・・・・・


マシンガンの銃声が妙に軽い音を発し、静かな境内に響き渡った。

山口が坂本の時と同じように、目の前で崩れ落ちたのを国分は見た。
血にまみれた彼は目をカッと見開いたまま絶命していた。

ハハハ・・・撃っちゃったよオレ。山口君・・・。
ちゃんと撃てるじゃんオレ・・・。


構えたマシンガンが唸りをあげ、山口が倒れるまでかかった時間はわずか数秒ほどだった。
国分は山口を殺したことに、なんの感情も沸きあがってこないのを不思議に思った。

もっとつらくて、もっと悲しいものだと思っていた。
だけどこの胸は痛まない。
その理由すら分からない。
ただ自分が友に向けて放った銃弾が、彼を死に至らしめたこと。
その事実が目の前にあるだけだった。


「た・・太一。おまえ・・・」

いつの間にか城島が来ていた。
国分は、悲痛な表情で自分を見ている視線を受け止める。

「おまえ、なんでこんなこと・・・」

しかしそれ以上言葉にならないようで、城島は涙でくしゃくしゃになった顔で山口の死体にかがみ込んだ。
恐怖でも怒りでもなくて悲しみ。
城島の胸に今立ち込めているのはその感情だけだった。

「茂君。ごめんね」

国分の抑揚のない声が頭上で響いた。
ゆっくりと城島がそれに顔を上げた。

「でもさ、こうしないと生き残れないんだよ?仕方ないんだよ」

太一・・・何いうとるかわからへん
その顔が言っていた。

「殺されるものと殺すもの。どっちかになるしかないんだからさ」

国分は、途方に暮れた子供のような頼りなげな城島の顔から視線を外した。
そして城島にはマシンガンを向けず、くるりと体の向きを変え歩き出したが、何かを思いついたように立ち止まった。

「あーそれからあのゲームだけどさ、この中で一人殺すとしたら誰?っていうあれ、気にしないでねほんとに。悪ふざけすぎちゃっただけで冗談だったからさ・・・」

そう前を見たまま言うと石を踏みしめ歩き出した。

いくらも歩かないうちに、国分は三宅の視線にぶつかった。
何の感情も持ってない。
そんな無表情の顔で三宅が数メートルほど離れたところから国分を見ていた。


あいつ、オレが山口君殺すのを見ていた――


国分がまたマシンガンを構えなおそうとした瞬間。

三宅の瞳に青白い炎が宿ったような気がした。


またも銃声が辺りに激しい轟音を放った。

国分は不思議な気持ちで見ていた。
自分の手から離れたマシンガンが空に飛んでいき、地面に落ちるのを。

何が自分のからだに起こったと悟ったのはその一瞬後。

血が吹き出していた。

それが自分の体から出ているものだと気づいたと同時に地面に崩れ落ちた。

「いてえ・・・いてえよ・・・・」

痛みにもがき回りながら、徐々に意識が薄れていくのに必死に顔を上げる。

そんな自分を三宅はやはり無表情のまま見ている。
その顔が何故か、坂本や秋山や、ついさっき山口を殺したときの自分の顔に見えた。

オレもこんな顔してたのかよ・・・

そう思うと心底ぞっとした。
寒い・・・・。
そして今はとてつもなく寒かった。

国分はガタガタと震えるほどのひどい悪寒によって、自分の命が果てる残り時間を教えられていた。

ちくしょー・・・オレ生き残るために仲間殺してきたのにさ。
殺されるなら意味なかったじゃん。オレのしたこと。なあ?

だけど、もうこれで殺さなくてもいいんだ・・・

ああ、そっかぁ・・・
殺されるって、すげー痛ぇしむかつくけど・・・
それでも

殺すよりかは苦しくないんだな・・・


「太一!?太一!」

城島が懸命に名前を呼んだが国分はもう反応を示さなかった。
太一!

城島の腕の中で息絶えた国分の顔は何故か安らかなものだった。

「太一、太一!なんでや!なんでやーー!」

うわあああーーーー!!

三宅が立ち去ったことにも気づかず、城島は国分の死体にすがりついていた。

【山口達也 死亡 国分太一 死亡 残り6名】




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