20 正体

… 2004年6月2日 13:30


武装した兵士たちが各所に配置されているため簡単には校舎には近づけない。
予想していた以上の物々しい警備に光一は頭を抱えた。
大木の陰から、どうやって兵士たちの中を潜り抜け校舎まで辿り着こうかと、思案を巡らしていたとき背後に気配を感じ振り返った。

「山下」
「光一君。無理ですよ。大体、校舎に近づくこともできないですよ」

と人事のように光一の首を指差した山下の首にも、鉄の輪ははめられている。

校舎は禁止エリアなんだから――

確かに山下の言うとおりだった。
武装した兵士たちの間を縫って行こうにも首輪が爆発したら何にもならない。

どないしよ。
だけどきっとこの中に中居君がおるはず。
なんとかして中にいれてもらわな・・・それか中居君に外にでてきてもらうんや。

光一は茂みに隠れながら少しずつ少しずつ、首輪の音が鳴り出していないかを確認しながら足を前に進めた。


ぶつぶつ・・・

手前にいる兵士たちの声が風にのってかすかに耳に入ってくる。

「はぁ・・・マジで暇だぜ。何も出来ない24時間って意外と長いんだなぁ」
「だよなー。だいたい人殺せるって聞いたから参加したのに・・・ちっ。全然話ちげーよ」
「みんなは中居サンここにいると思ってるんだろ?じゃあ一人くらいここに来てもいいのになー。誰もこねーし」
「中居サンいないんだ?ここに?」
「おまえ知らなかったの!?」

と、そこにもう一人現れた兵士に
「おまえら何無駄口聞いてるんだ!とっとと持ち場に戻れ」

と怒鳴りつけられると、本来いた場所にすごすごと二人の兵士は戻っていった。


中居くん、校舎におらんのか!!
山下の顔を見ると、彼もまた「え?」といった表情でこちらをみていた。

「・・・どうするんですか光一君?」

そう山下が言うとコクリと光一は頷き辺りを見回した。
すると校舎とは対極の方向に建物があるのが見えた。
木立の中に佇む建物は赤い円形の屋根がやけに目だっていた。
あれは・・・?
光一は何かに呼ばれたようにそこへ足を向けた。


建物の周り囲むように生い茂った木々が、さかんに葉の音を鳴らしあっていた。
それを目にした光一の中に違和感が生じた。

なんでや。
なんでこの周りには誰もおらんのや。

校舎と目と鼻の距離でありながら、完全に護衛の範疇から除外されているようで一人の影すら見当たらない。

確かに校舎とは関係ないからかもしれない。

けど・・・

何故か屋根にはたくさんの受信機なのかアンテナがつけられている。
まるでその位置すら知られるのを避けているかのような、ひっそりとした佇まい。
その違和感に引き寄せられるように光一は歩みを進めた。

この付近は禁止エリアにもなってないようだ。

やっぱりこの建物は何でもないからか?
それでもとにかく行ってみようと歩く光一に

「どこ行くんですか?」
と、山下も後に続く。

早くライフル返してほしいよなーったく・・・オレを助ける!なんてかっこいいこと言う割にはオレのライフルまだ持ってるじゃんかよ・・・オレを本気で助けようと思うなら、黙って死んでくれればいいのに・・・。

苛立ちながら、隙を見てライフル奪いにいくしかないなーと思っていると例のものがポケットで震えだした。
あ。やべえ〜かも。

「ちょっと、オレやぼ用です」

と、立ち止まるといきなり駆け出し、光一の目が届かないとこまで走るとそれを取り出した。

「もしもし・・」
「ナニ ヤッテンダ!」

はあ・・やっぱりな。言うと思った・・・。
わかってはいたが、がっくりとくる言葉を浴びせられ、山下は元気なく、はぁと返事をした。
一陣の風が木の葉を落としごう、と唸りをあげて通り過ぎた。
山下は強風に乱れた髪をかきあげる。
風を避けようと、山下は直系1mもありそうな太い樹木の幹にもたれた。
緑に生い茂る葉が周りの地面に大きく黒い影を落としている。

「体育館ニ・・・ナ!光一ヲ ナントカ誤魔化・・・ソコカラ移動・・・ロ!」
「はあ?なに言ってるんですかー電波調子悪いですよ??」

相手の焦っている口調とは裏腹に、山下は気の抜けた返事をした。



チッ!
電話の主は山下が、光一の目の前で携帯をとったら即効切らないといけないと思っていたが、モニタ越しに確認すると光一の目の届かないところまで走ったのに安心していた。
しかし今度は携帯の電波が良くないらしい。

腰掛けていたモニタ前の椅子から立ち上がり、ボイスチェンジャーをはずして窓へと近づくと、もう一度繰り返す。

「いいからそこから移動しろって!こっちに来るんじゃねーよ!」
「え・・・え!?」

山下は耳を済ませその声に聞き入った。
機械的な声が急に肉声に変わっていた。
電波が通りクリーンに響いた声は生々しく、聞き間違えようもなかった。

「え?中居君ですか!?そんな変な声にかえないで、最初からちゃんと教えてくれたらよかったのに!」
「おめーイライラすんなあ!時間ねーんだから、さっさと鉄砲奪い返して片付けちゃえよ!」

あはは、てっぽーだって!だっさ〜
山下は思わず笑いだしそうになったのを懸命にこらえる。

「おまえ生き残って首輪外したいだろ!?オレも首輪の鍵取らないといけないしさ!」

はいはい!わかってますってば!てっぽーは俺も返して欲しいから頑張ってるっての!
ん?首輪の鍵?ってなんだ?


「山下?」
あいつ 急になんや。
不審に思い光一は、その後を気づかれないように小走りで尾行すると山下が携帯電話で何やら話をしているのが見えた。

携帯?なんでや?オレのんここ電波通じんかったのに。
なんであいつは話せるやんや?衛生か?
光一も携帯電話を取り出し、操作してみたが電源は入っても本来の機能を働かせることはやはりなかった。

気になって耳をそばだてるが、距離が遠くて声までは聞こえない・・。
そう思ったとき
「え?首輪の鍵?ってなんですか?」
一際大きな声を出した山下のその言葉だけが、はっきりと聞こえた。

「なんや一体・・・首輪の鍵?」
鍵なんてついてへんのに・・・。

首を傾げつつも、電話を終わったらしい山下がこちらに戻ってくるのに怯むことなく問いただす。
「おまえ誰と話してたんや」
「あれ。光一君そこにいたんすか?」

山下がしまったというような顔をしたが、大して驚いた風でもなく、しーっと指を口にあてるとそれが入っているポケットを軽く叩いてオレの武器これなんですよと囁いた。

ええ?
光一がわけがわからないという顔をしたのに、にこり。そんな音がしそうな笑顔で山下は答えた。

すみませーん。ばれちゃいました。



くそっ!
山下てめーばらしてんじゃねー!

何のために今まで他のやつらに知られないように間合い見計らって電話してたんだよ!
モニタを睨みつけ悪態をつきながらテーブルの上の無線を手に取り連絡を急ぐ。

「至急こっちに応援よこしてくれ・・・ああ、それで構わないから」

まさかここが気づかれるなんてな。
もうすぐ光一はこの場所へ来るだろう。
ライフル持ってるし、かなりやばい。
でもきっとあいつにはオレは撃てない・・・。

中居はモニタ越しに近づいてくる光一の顔を見ながらそう思ったものの手の震えは激しくなるばかりだった。




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