21 希望

… 2004年6月2日 14:00


体育館?
光一は目の前の赤い屋根の大きな建物を見上げていた。
ここだけが鬱蒼とした森の中にふさわしく湿った空気に包まれていた。
その体育館らしき建物の大きな入り口に耳をあててみるが何も聞こえない。

思い切って観音扉を開けてみる。

鍵はかかっておらず、簡単に扉は開いた。

そうっと覗いてみると、中はだだっ広い空間になっていて特別変わった様子はなさそうだ。
中に入ろうと思ったがふと足を止めて、もう一度外観を注意深く観察した。

外から錆びた階段が伸びて2階へと続いている。
階段を上りきるとすぐに重そうな鉄製のドアがある。
小さな窓がひとつあるが、中は見えないように磨りガラスが入れられ鉄格子がはめられている。

光一はまたドアに視線を戻した。
何故かこのドアだけがこの建物に似つかわしくないような気がした。
いかにも後から組み込まれたような新しい、近代的な扉に光一は目を奪われた。

あの中にいるんや。

この建物を見てから感じていた違和感はいまや確信となっていた。
武者震いのようなものが自分を襲う。

長瀬、剛、オレこれからおまえと約束したこと果たすから
見守ってくれ!
思わず光一はそう願った。


山下は
ち。
無理だって。
と歯がゆい思いで光一を階段の下から見上げていた。

近づけさせるなって言われてもさー、オレの武器光一君持ってるんだもん。言うこと聞かせられるわけないし。
オレが携帯で連絡とってたのバレたのも、あんなときにかけてよこすからだし。
ていうか。ほんとにここにいるのかヨ?
オレも知らなかったよ、中居君?


「中居君!いるんやろ!開けてくれ話があるんや!」

光一の必死の呼びかけにも物音ひとつせず、しんと静まり返っている。

「中居君!お願いや。どないしてしもたんや。話くらいさせてくれ!」

やはり返事はない。
中居君がそのつもりなら・・・
そのドア無理にでもあけたる!

光一は、ドアに向けて一発撃ちこんだ。ものすごい衝撃を肩に残して弾は放たれた。

グアアァァンン

あたり一面に響き渡る音に思わず耳をふさぐ。

しかし、鉄製のドアは銃弾を通すことはなかった。
ちくしょー

「中居君!?そこにおるんやろ!?」

ドアを叩くが反応はない。
次に光一は、窓の鉄格子の隙間へとライフルを向けた。

ガチャーン

激しい音を立て窓ガラスが撃ち抜かれた。
大きく割れた窓の隙間から中を覗いた光一は目を疑った。

真っ白く塗り替えられている部屋の中には、数台のモニタが設置されコンピュータルームと化していた。

なんや?これ・・
これは島に取り付けられてるカメラと、首輪のカメラが映し出してる光景や。
たぶん盗聴もしてみんなの様子は丸分かりなんや。
ここでみんなを監視しとったんか。

ひとつの画面に惹きつけられた。

誰かが歩いている足元が写っている。
あのスニーカー!それに・・・
あれは日本刀を持った剛の手や・・・・・

首輪につけられているカメラが、歩いている本人の姿を映し出していた。

あれ・・・あいつ、遊園地におったんちゃうんか・・・?
なにしてんねんあいつ!

カメラには周りの景色が時々ぶれながらも写りこんでいる。

森の中?あいつ森の中歩いているんか?
まさか、こっちに向かって・・・?いや、でも・・・・

複雑な気持ちにかられながらも、光一は中居の姿を探した。

しかし、肝心の中居の姿はない。
逃げたんか。オレが来ること知っといて・・・

部屋の隅にまで視線を走らせるが人の気配はない。
ふと、目の端にそれが写った。

首輪?

長い湾曲したデザインの白いテーブル上の1台のコンピュータに視線を止めた。

あれは・・・

ディスプレイに写りだされているのは首輪らしき立体図。
左右に首輪が二つ並んでいる図面だった。
しかしよく見ると二つの首輪の形は微妙に違っていた。

あれは・・鍵?

ひとつの首輪には鍵。そしてもう一方の首輪には鍵がなく、表面に鍵穴のようなものが見えた。

なんや。鍵のある首輪と鍵穴のある首輪?

しかし画面はすぐに切り替わって、島の全体図に変わった。

それについて考える暇はなく、
そうや。と
光一はライフルを部屋の中のモニタへと向けるとそれを発砲した。

バン バン バン・・・と立て続けに撃ちこむとすさまじい衝撃が手に残る。

光一は尚も発砲する。

バン!ガシャン! ジジジ・・とそれぞれのモニタが悲鳴を上げた。

光一はぜいぜいと肩で息をしながら

「中居君どうゆうことやねん。山下まで手下みたいに使って。もうこんなことやめにしてくれ!」

と、叫んだ声にどこからか声がした。


プルルル・・・
山下の携帯がまた震えだした。

「はいもしも・・・」
「バカ!!やめさせろって!中入れてやるからドアんとこつれてこい!
お前も上にあがってこい!一緒に中に入れ!兵士呼んでるから!」

えー!兵士!?
慌てて階段をあがり窓のところにいる光一を呼ぶ。


ドアの上部の壁に自分を映し出しているだろうカメラを山下が見ると、それにつられて光一も見上げた。
キラリとレンズが光ると、その傍にあるスピーカーから音が鳴った。

「光一。中に入れてやるから、その物騒なのそこに置け。」

中居君!やっぱりここにおったんか!

「わかったよ中居君!」

言われるまま素直に従い、カメラに向かって両手をあげジェスチャーを送る。
すると、機械音の物々しい音とともに分厚いドアが開いた。
探し続けていた中居がそこに立っていた。

中居に誘導され、光一と山下は中へと踏み込んだ。
すると背後で、そのドアがまた唸るような機械音を上げ閉まった。

光一は思わず身震いをした。
ソファにどさっと座った中居に光一は険しい顔を向ける。
二人の視線が交錯した。

「おまえ、よく来たな」

言葉とは反対に、自分が好ましからざる客だということはその目の色でわかる。
中居のどこか怯えているような様子に、光一は悲しい気持ちになっていた。

「中居君。もうやめてくれ。こんなこと。何になるんや。もう大勢仲間が死によった。
これ以上戦わせてどないするんや。最後のひとりってなんなんや一体」
「それは無理だから。このゲームを止めることはできない」

とりつくしまもない言葉。

「わりーけどさ、その話には乗れないね。オレも大変なんだよね。
おまえらいいよ外で戦ってりゃいーんだから。こっちは中で全部の管理だもん。
大変なんだって!邪魔すんなって。っとに!最後の一人になれなくて時間切れたら首吹っ飛ぶんだよ!?なんのために大野の首飛ばしたんだと思ってるんだよ?
まだわかんねーのかよ光一!」

「中居君!」

怒りに燃えた光一が中居に向かってこぶしを上げた。

「なに?殴ってどうすんの?そもそも、オレ殺しても無理だよ。
止まんねーんだよ!!このゲームは!!!」

――オレにはこのゲーム止める権限はないんだよ!――

え?
どこか寂しげな表情に、中居の本心が見えたような気がしていた。

――オレ・・・何してるんや

光一は振り上げている拳を下げた。

「なら他に・・他に全員助かる方法ってあるんやないか?それ知っとるんちゃうか?
教えてくれ!中居君!それに社長の命令ってどうゆうことなんや」

しかしその答えを聞く間もなく

バン!

外で銃声がした。
振り返るとドアが開かれていた。


ドアの外にいつの間にか、兵士たちが銃を掲げて近づいて来ていたのだ。

「光一を連れ出せ!」

中居がそう叫ぶとどやどやと数人の兵士が入って来た。
兵士たちに捕らえられた光一は、ひきずるように連れられ無理やり外に放りだされた。

「や、やめろ!!まだ話あるんや!!中居くん!中居君!!」

しかしむなしくもそのドアは目の前で閉められた。
中居の顔がドアの隙間からついに見えなくなった。その顔に映し出している表情の意味を読み取れないままで。

外に出ると兵士たちは光一のからだから手を離し「行け!ゲームを再開しろ!」と命令した。
しつこく抵抗しようとした光一に兵士が威嚇する。

バン!バン!!

光一の身体にすれすれの弾道が走る。
光一がくそ!という顔で逃げ出すと、それに続いて兵士がその背を追った。


一方、ドアの中では、オレも撃たれちまう!?とあたふたしていた山下に中居がそっと、その身体の前に手で合図を出した。
にやりと目くばせし中居は山下に「それ」を伝えた。
すると山下は安心したように肩の力を抜き、きつく結んでいた口元を緩めた。


 

あ〜あ。派手にやってくれたよな・・・
山下が去った後、中居は荒れ果てた部屋を虚ろな目で見回した。

メインコンピュータは校舎にあるので、ゲームのシステムには全く影響がないとはいっても、この部屋で島の中を中居自身がモニタでチェックをしていたわけで、それを破壊されたのはかなり痛い。

絶対この場所死角だったのになー。
ったくこれじゃもうここ使えないじゃんかよ・・・。

時計を見ると残り時間はあと3時間。

なんとしても山下を時間内に最後の一人に・・・。
じゃないと・・・。

中居はそうっと自分の首に触れた。



光一無事でいてくれ。
三宅を見送った後、剛は校舎へと道を急いでいた。
今まで人数を確認していなかったが、よく数えてみると中居が最初に言った
「この23人で殺し合いをしてもらいます」の意味が今になってわかった。

あれは、中居君を含めた数やったんや。
22人プラス中居君。
このゲームには中居君も参加してたんや。最初から。

しかし、今それがわかったとしても、何だというのだろう。
ただ、中居に会いに行った光一の身がより一層案じられるだけだ。

それでも、掲示板に光一の名前が出ていないということは希望があるということなのかもしれない。

希望に向かって歩き続ける。
それが自分の果たす使命のように。




Next Page >>