22 追撃

… 2004年6月2日 15:00


光一は、兵士の銃から逃れようと一目散に走っていた。

全然あかんやん。全然・・・。
このゲーム止めさすなんてやっぱ無理なんか・・長瀬・・・!

長瀬が自分を送り出したときのあの笑顔が思い返され胸が詰まる。

剛はまだ無事か?
なあ。オレやっぱ間違ってたんか?
誰も、一人も助けられないんか?

汗か涙かわからないものが流れていた。
額に張り付く髪をかき上げもせず走る。


バン!


左肩に衝撃が走った。

しかし止まることを許されない足はひたすら地面を蹴り上げ続ける。
取り落としたバッグを置き去りに、傷ついた肩を右手でかばい、光一は走り続けた。


「おまえ今の当たったんじゃないか?」
「やべえーやべぇー当てるつもりはなかったんだけどなー」
「相手が攻撃してこない限り撃っちゃいけないって言われてんのに、おまえわざとだろ?」
兵士たちの軽すぎるやり取りは乾いた空へ吸い込まれていった。



森の中まで逃げ込み兵士が追ってこないことに気づくと、光一は速度を緩めた。
はあはあ・・・
息が切れ、もつれた足がついに止まった。
まだ血に汚れてなかった白いシャツの肩口も、赤いそれによって染められていた。

「ちくしょー!」

ずきんずきんと脈打つように、撃たれた傷は痛むが、幸いかすり弾だったようで、それほど重傷というわけでもなさそうだ。
しかし、止血しないで動き回るのは危険だ。
とりあえずシャツの下のタンクトップを脱ぐと、力任せに引き裂き、不恰好ながら肩口にきつくぐるぐると巻きつけた。

緑の葉を風にさわさわとそよがせている樹木の幹を背に、ずるずると滑り落ち、乱れた呼吸を整える。

体は木に縛り付けられたように重く、立ち上がることもできない。
寒気がする・・・。

光一はしばし目を閉じた。

 


剛は辺りを見回していた。
校舎の付近まで来ていた。

ガチャ、ガチャ。
銃を構えた兵士が武装音を鳴らしながら物々しい空気を漂わせウロウロしていた。

「なんかあったんや・・・」
そしてその”何か”を起こしたのは、おそらく光一。

この場所にはおらんでも、光一は少なくてもこのエリア内にはおるはず。
早くあいつをみつけださな!
どこや・・・どこや!光一!!

剛は光一を探す為に足を速めた。
どうしようなんていう秘策はなかった。
残ってる者を殺し、自分が生き残れるとも思わなかった。
それでも走らずにはいられなかった。
ただ、光一に会うためだけに。
今もう近くにいるはずの光一を探して。

 

森へと逃げ込んだ光一を追って山下も濃い緑の中を小走りに駆けていた。
山下はライフルを手にしていた。
光一が中居に言われてドアの前に置いたままだった自分の武器を取り戻したのだ。

ブルルッ
山下の携帯電話が着信を告げて震えた。
きた!

「もしもし?」
「山下今どこにいる?光一はみつけたか?」
「今校舎の手前の森ん中ですよ。光一君はまだです。」
「モニタ、だめになっただろ。こっちから見えないんだよ」
「わかってますよ。それで―――」

山下は電話をしながら草をかきわけ進みだした。
ライフルさえ取り戻せばこっちのもんだって。指示とかいいしさ正直。
戦闘態勢なればちんたら電話してる場合じゃないんだし。
もうオレひとりで十分だからさ・・・

「禁止エリアも、残り時間1時間を切ると15分ごとに自動的に増えていく。
最終的には島全部が禁止エリアになるからさ。その前に始末しないとおまえの首輪も・・」
「わかってますって!任せてください。俺が最後の一人になりますから」

言い切ると電話を切り、ハンターのようにライフルを持ち悠然と森の奥へと向かった。

 


三宅はゆっくりとドアノブを回した。
足を下ろすたびに床がみしみし鳴った。
たわんだ床を軋ませながら診察室のドアを開ける。

三宅はその場所へと帰ってきた。
自分が殺した森田が眠るこの部屋へ。

それまで手にしていた、仲間に向け奪ちこんだショットガンをおぞましいものを見るように放り出し、三宅は壁にもたれて座り込んだままの姿勢の森田へと近づいていった。

胸に突き刺さったナイフはまだそのままだった。
三宅はゆっくりした動作で森田の正面にかがみこみ、その顔を眺めた。
全身は血まみれだったが、顔だけは無傷だった。
頬についている土を指で払ってやる。
ただ瞳を閉じ眠っているだけのような姿。

「バーカ。おまえ何しに戻ってきたんだよ」
なんて声が聞こえてきそうだった。


「ゴウ。オレさ・・・」

なんだよ?

「オレ、おまえの言うとおり生きようとしたんだ。

だけどさ。」

・・・・・・

「オレ。やっぱ違うかなって思ってさ。」


森田は何も答えない。

「おまえが生きろっていった意味が今わかったような気するんだ」

ふっと森田が笑ったように見えた。


そうだ。

それでいいんだよ。健。

おまえはおまえの思ったとおりの生き方を最後まですればいいんだよ。

それがおまえの生き方なんだから・・さ。


ごめんなゴウ。

そして

ありがと・・・ゴウ

三宅は森田の隣に並んで腰をおろした。


「オレ、もう怖くないよ」

ゴウがいるから。


おまえ、ここにいたのままでいいのかよ?

森田が問いかける。

「行かないよ。ここ以外オレの行く場所なんてあるわけないじゃん」

ここには仲間もいるしさ。

長野君もイノッチも、岡田も、ゴウも・・・・。


そっか・・・。

森田が笑った。

「うん。ゴウ」

三宅も笑った。

オレたち最後まで笑って・・・

笑っていようよなゴウ?


三宅の瞳から一滴の雫が落ち床へと吸い込まれていった。


ブスリ。


ゴウを刺したそれが三宅の胸に刺さっていた。
赤く、美しい血が滴り落ちる。


森田の肩によりそって穏やかな気持ちになった三宅の顔は、まるで悲劇を知らない無垢な子供のようだった。

そしてまた1つ、この戦いで落とした尊い命が風に乗って空へと立ち上っていった。


【 三宅健 死亡 残り4名 】




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