24 終焉 … 2004年6月2日 16:00 突然、サイレンのようなウーという非常警報音が響きわたったのに剛と光一は驚き、辺りを見回した。 どこかに取り付けられているだろう放送用のスピーカーから警告音が大音量で流れていた。 なんや?なんや? あせって掲示板を見上げると 「WARNING!」という大きな赤い文字が画面いっぱいに躍っていた。 タイムリミットまで1時間の警告だった。 「あと・・・一時間やな」 剛がそう言うと、ああ。と光一も答えた。 2人の気持ちは同じだった。 俺たち・・・一時間後には一生一緒にいられへんようになってるかもしれへん・・・。 こんなにも1秒1秒を大事に思ったことがあっただろうか。 生きるためのこの時間を。 そして信頼出来る相方とのこの時間を。 「もし、あかんかってもお前だけは助けるからな」 そう剛が笑った。 「はあ?大丈夫やって!そんなんありえへんから! 絶対お互い助かる方法見つけだすからな!」 と、光一がムっとした顔をした。 「わかってるって。だからもしもの話や」 照れくさそうに剛が微笑むと、剛の言葉の意味を理解した光一もまた、照れくさそうに微笑んだ。 「まあほんまに万が一のことがあったら、助けられるのはお前のほうやけどな!」 「なんでやねん!助けたるいうてるんやから、おとなしくお前が助けられとけ!」 「いや、おまえやって!」 「もうええわ!お前黙れ!」 空はこんなに青いのに 生きていることがこんなに嬉しいのに 涙で視界が歪むのは、このバカな相方のせいだとお互いが胸に染みらせた。 チッ!もうあと1時間かよー。 体中に響くサイレンを聞いて、山下の心臓はバクバクと音を立てていた。 あれ?これって・・・ まだ乾ききってないような鮮やかな赤に目を奪われた。 血痕と思われる赤い液体を、青々とした草むらの中に付着しているのを見つけ自然に笑みが こぼれる。 これって・・・光一くんのだよね。 電話でバカな兵士が撃っちゃったって中居君言ってたし。 向こうが攻撃してこない限り、兵士は俺たち23人を傷つけたらダメって話だったのに。 ま、もちろん光一くん弱ってくれて俺には都合よすぎなんだけど! 余裕、余裕。 余裕過ぎるね。 光一君こんなゲーム止めさす!なんてタンカきってオレを助けるって言ってたけどさ。 やっぱ無理だし、戦うしかないんだよ。このゲームは最初からそうゆうルールなんだから。 けど約束は守ってくれますよね。 それには死んでくれるしかないんだよ。光一君が。 きょろきょろと辺りを見回すとまた血痕を見つけた。 点々と緑の中に色づいているそれを発見し、山下は敵を手中に入れたような気がした。 この跡をたどれば・・・ 「よし!いよいよ最終決戦開始!」 そう声に出して叫ぶと、邪気の無い顔でまるでピクニックにでもいくかのように歩いていった。 歩き続けているうちに、岬の上にたどり着いていた。 海がパノラマのように眼下に広がっている。 もう安全地帯はここ近辺だけだ。 山下もこの近くにいるはずだ。 そして、そんなオレらの様子を23人目の中居君もどこからか見ているのかもしれない・・・。 そう光一と剛が思ったとき。 「お疲れ様です。やっと会えましたねお二人さん」 「山下!」 木陰から出てきた山下が不適な笑みを浮かべていた。 二人の立っている位置からその距離数メートル。 手にはライフルが握られている。 咄嗟に剛が身構えた。 しかし光一は動じない様子で山下に話し始めた。 「鍵、鍵のこと知っとらんか?中居くんがなんか首輪の鍵のこというてたろ?」 「はあ?なんのこと?」 山下も思わず返事をしていた。 確かに中居君、鍵がどうのって言ってたけど・・・ よくわかんねーし第一面倒くさい・・・ 山下は相手のペースにのまれるのは危険だと、知らぬ振りを決め込むことにした。 というよりも本当に聞いてないのだ。 「さあ。オレは知りませんけど。鍵のことなんて」 「鍵がついてるんや。この首輪に。この鍵を取り出す方法があるはずや。 そしたらオレら助かるかもしれんのや」 「だから鍵のことなんて知らないっていってるでしょ。それにどうでもいいです正直」 興味ないといった風に光一の言葉を足蹴にする山下。 「そんな訳わかんないこと知らなくてもいいんじゃないすか、今更。もう時間ないんだし。 光一君、助けるって言ったじゃないですか。みんなのこと。 でもみんな死んじゃって、もうオレらしか残ってないんですよ? 死んだ仲間のことはどうでもよくって、もう自分らだけ助かればいいってことなの? それとも最初から自分だけ助かればいいって思ってたの?」 「・・・・・・」 少し前まで一緒に行動をとっていた山下の今の言葉が本心なのだろうか。 光一は言い返すことができなかった。 「なに言うてんねん山下!光一は本気でみんなを助けたいって思ってたんや」 剛の強い口調にも山下は馬鹿にしたような視線を向けた。 「ふーん。どうだかね。自分だけ助かればいいって思ってるならそれでいいんじゃないの?最初からはっきりそう言えばさ。オレみたいにね。それを理屈こねて正義振りかざして一体誰を助けるつもりだって言うの?そんなに助けたいなら、オレ助けてくださいヨ。 吊り橋のときみたいにさ。そんで二人仲良くオレに殺されてよネ」 やばい! 光一と剛の瞳が交錯した。 ジ・エンド さよなら光一君 山下がライフルの銃口を向けたと同時に 「剛走れ!」 光一が叫び大きく横にスライドするように飛んで、木の影に隠れこんだ。 剛はそれとは逆方向に懸命に走った。 後ろを振り返ることもなく。 バン! 光一が隠れた樹木の表面を、弾が削り取った。 「ちゃんと当たってくださいよー」 山下は一歩ずつ光一の隠れこんでいる木へと近づいていった。 じめじめした空気に肌の表面がじっとりと濡れていた。 玉のような汗がいくつも光一の首筋をつたって落ちていく。 なんとか最初の攻撃を交わした木の陰で、光一は必死に考えを巡らせた。 もうあかん。けど剛、助けな・・・ 海が下に見えるここは崖の上。 なんとか崖っぷちの方に移動するんや。 走れっ! 光一は目を閉じ覚悟を決めると、ポケットからナイフを取り出しながら走り出した。 ザザザッ 木々の間を縫ってジグザグに走り抜ける。 山下も走りながら撃ち込んでくる。 バン バン しかし狙いが定まらず、弾はなかなか数メートル前の背中に当たってくれない。 まだや。まだ・・ 光一は走り続ける。 山下がその背を追っていると、突然視界が開けたところに出くわした。 目の前には空と海の色が交わる青が広がっている。 どうやらここが岸壁の上で、しかももう先がないということに気づき山下は口の端を緩めた。 獲物をとうとう追い詰めたのだ。 光一がさっと身をかがめ草むらの中に隠れこんだのが見えた。 「もう鬼ごっこ終わりっすよ。 いろいろお世話になりましたけど、ちゃんと剛君も後から送り込みますから安心してください」 光一はじりじりとさらに崖の方に移動しながら、近づいてくる山下の足音を数えていた。 1、2、3、4・・・ 間合いをはかって十分山下が近づいてから いまや! 低くジャンプして山下の方足を掴んだ。 不意をつかれて山下がのけぞった。 光一は山下の上に飛び乗った。 ナイフを首元に突きつける。 うわ! 押し倒された山下の指からライフルが滑り落ちた。 眼光鋭く、目の前の互いの顔を見合ったまま二人は暫くその体勢を維持していた。 うかつにライフルを拾えば、先にこの首のナイフが突き刺さるだろう。 光一に気付かれないようにと、すこし、またすこしと山下は指をライフルに近づける。 すると、すかさず光一もそれに反応し、ナイフの刃を山下の喉元に這わせた。 ひんやりとした冷たい感触に首筋がぞっと音を立てた。 くそ! すぐそばに落ちているのにそれを拾えないことで山下は焦りを感じていた。 光一君は俺のこと、本当に殺す気なのか――― 温いことばかり言う光一を、甘く見ていた自分の軽率さが悔やまれる。 今までに無いほどの汗が流れだす。 突然、ぶわっと強い風が吹いた。 二人が争っている崖の下は大きな岩がごろごろしている岩場だった。 落ちたらひとたまりもない。 争っているうちに二人とも落ちてしまうことも考えられる。 山下は光一がわざとこの場に誘いこんだのを知った。 自分も死ぬ覚悟で。 明らかにこの体勢では山下が不利だった。 どうすればいい?どうすれば・・・。 「オレのこと助けてくれるんじゃなかったの? ねえ、俺・・・殺されちゃうの?」 死への恐怖に怯えたように、声を震わせ山下は訴える。 そのとき、光一にためらいが生じたのか、ナイフを突きつけていた手から一瞬力が抜けた。 山下はそれを見逃すことなく、光一のナイフを持つ手を押し掴んだ。 揉み合いになった二人。 「あ!」 山下の激しい抵抗により、ナイフが光一の手から空へと舞い、崖下へと飛んでいった。 しかし光一はそれに怯むことなく、自分の下敷きになっている山下の両手を掴み広げて 地面へと叩きつけた。 はぁー、やっべえ。 なんとかナイフで殺されずにすんだものの、まだ山下に分は無かった。 このまま横に落ちているライフルを光一に奪われては、完璧に自分の負けが見えている。 頭をフル回転させ、光一を打ちのめす方法を必死に考える。 「長瀬君・・・」 ながせ?思わぬ言葉が山下の口から飛び出し光一は耳を傾ける。 山下は何かを思い出しているような顔をし、言葉の先を続けた。 「診療所のそばでさ。見たんだよ」 なんやて?診療所! 確かに長瀬は診療所におった・・・ 「診療所のそばにある木で首吊って死んでたんだ。長瀬君。自分で吊ったんだろうね・・・・耐え切れなかったのかな?このゲームに。自分から降りたんだろうね。彼案外繊細だったのかな光一君とは違って。かわいそうに」 「うそや!」 「うそじゃないよ。信じたくないならそれでもいいけど。オレ見たんだよ。診療所の中ではV6のメンバー死んでてさ・・・」 ほんと・・・なのか・・・ 山下のことは信じられないが、その話がうそだという根拠もなかった。 確かに診療所のメンバーは死んだのだ。自分がそこを去った後で・・・。 長瀬が・・長瀬が首を吊って・・・自分で!? なんで・・・なんでおまえが!? オレ、おまえ助けられへんかった・・・ オレのこと信じてもらえんかったのやろか・・だからおまえは・・自分で死を・・・ 光一の胸を、長瀬が首を吊ったという言葉が押しつぶしていた。 その目からぽろぽろと熱いものがこぼれていた。 チャンス!! 山下は押さえつけられていた手に思いっきり力を込めて、光一の手を払い身体を起こした。 そして身体を反り返し、落ちているライフルを手にすると、そのまま光一を押しのけた。 反動で二人は転げて地面に膝をついた。 ゆらり。 地面に手を付き下を向いたままの光一を見下しながら、山下が立ち上がった。 「でもさ。光一君もウソはいただけないよね。みんなを助けるなんていっておいてさ。 やっぱ相方の剛くんだけ助ける気なんじゃん!俺のこと殺そうとして!! ナニソレ。 すげーむかつくんだよ! 自分犠牲にしてトモダチ助けようなんて吐き気がするよ。 そんな恩きせられる剛君だっていい迷惑じゃん!?」 山下の言葉全てが容赦なく心に突き刺さる。 そう・・・その通りや・・・ 剛に生きててほしいけど、それで山下は死んでもええんか・・・? 誰も誰も助けられへんで・・・オレ・・・そのうえ山下も殺そうとして・・・ 山下死んだお陰で剛は生き残って・・・それであいつ、一人生きのびて何を思うんや・・・ オレは・・・オレは・・・ 光一にとって、このゲームが始まったと同時に「絶対にあきらめない」と胸に刻みつけた信念ともいえるその言葉は、友を救う、そして自分自身を救うはずの命綱だった。 それこそ自分の手にした最大の武器だと信じて。 長瀬が死んでからも変わることなく、どんな苦境においても手放すことは決してしないと誓っていたそれ。 しかしたった今親友が自ら死を選んだという真実を知ってしまった。 そして、全てにおいて自分が矛盾しているのだということも。 愕然と打ちひしがれ身体を震わせている姿は、ついさっきまでの屈強な光一とは別人のようだった。 地面が光一の涙を吸った。 「ゲームオーバー。もう、話すことは何もありません」 反撃する様子の見えない光一に、山下はライフルを構えた。 「やめろおーーーーー!!」 振り返ると、怒号と共に剛が走ってきていた。 なんだよ。逃げたんじゃなかったのかよ・・・。 でもちょうどいいや。探す手間と時間省けて。 ああ、そうだ。 相方の剛君目の前で死んだら、もっと壊れるのかな?ねー光一君? そう思うと山下はぞくぞくと身震いした。 人って、こうやって壊れていくんだね――― そしてすっと銃口を剛に向ける。 バン! 空を仰いだ銃口から煙が立ち昇った。 わっ! な、なんだよ!? 「やめろ山下!」 泣き崩れていた光一が横から山下に襲い掛かっていたのだ。 な、なんだよ!もう諦めたんじゃなかったのかよ!! 「なに!?また矛盾したことするわけ!?」 「うるさい!!剛が・・・剛が殺されんの、黙ってみてられるわけないやろ!!」 くそくそくそーーー!! 怒りに任せて山下はもう一度引き金を引いた。 今度は光一の身体めがけて。 バーン 腹を抱えた光一が、山下の足元にどさっと膝まづいた。 ごぼっ・・・・その口から大量の血が流れる。 「光一ーーーーー!!!」 全身で叫びながら光一の元へと走っていた剛は、その瞬間を目にすると 膝ががくがくと崩れよろめいた。 「あ・・・あああ・・・こう、こうい・・・ち・・・!!」 足がもつれ彼はそのまま転倒してしまった。 手を光一の方に伸ばし必死で起き上がろうとするが、目の前で光一が撃たれたことがあまりに衝撃だったのか、うまく立ち上がることが出来ないでいる。 ふっと山下は目で笑うと、すっとまた銃口を剛のほうに向ける。 「や・・・やめろ・・・」 光一の膝が、ぐ、ぐぐぐ・・・とゆっくりあがる。 な、なに? そんな身体でまだ抵抗するの?・・・なんで? 山下はその行動が理解できず剛から目を離し、呆然と光一に視線を止めた。 光一は腹部の傷を腕でふさぎ、膝をがくがくさせながら立ち上がったかと思うと、ぐっと山下の肩を掴んだ。 「やめ・・・ろ・・・撃つ・・・な」 口から血を滴らせた必死の形相に、山下は腰が抜ける思いがした。 「ばか・・・なこと、もう、やめろ・・・」 もうこれ以上自力で立つことが出来ず、光一はぐらり、と山下に寄りかかった。 流れ出る光一の生暖かい血が、山下にもつたう。 「オレ・・・助けてあげれなくて・・・ほんとうにごめんな・・・。 おま・・おまえら、あきらめんなよ・・・ な、なんとかして・・・生きのびて・・・」 「な、なんなんだよ!!」 バッとその身体を振り払うと、光一はゆっくりと後ろへ倒れた。 「やま・・した・・・。中居・・・くんに・・・気を、つけ・・・」 え・・・? 山下は不意をつかれたような顔で、光一を見ていたそのとき――― ドン!!! ズザザザッ うわっ! 衝撃で倒れた山下。 なんとか起き上がり走ってきた剛が、山下をはねのけたのだ。 「こー・・・光一ーーーーーーー!!!!」 剛が名前を絶叫しながら光一へと駆け寄った。 「光一・・・しっかりしい!生き残るんや!最後まであきらめないって言うたやろオレたち・・・こんな島はよ出な。二人でまたやっていくんやから!なあ!?」 後は言葉にならない。 剛の両目からぼろぼろと涙が零れ落ち、光一の顔を濡らしていく。 生き残ってまた元のように二人でやっていく・・・その希望はすでに打ちくだかれていた。 それなのに、死を前にした光一を見ている今でもそんな言葉がでてきたのは、何より剛自身が切望していたからだろう。 「つ・・よし?・・・」 空をさまよっていた光一の瞳が、剛を捕らえると優しく微笑んだ。 こういち・・!? 剛は光一の言葉を聞き取ろうと、口元に顔を近づける。 「なあ・・あの詩おまえからもろたのに、曲つけようとおもてたんやオレ・・・」 うん。うん。剛は大きく頷いた。 「はよ 帰って一眠りしたいんや オレ。そしたらきっと曲つくるから・・まっといて・・ そしたらオレらまた・・・・」 声にならない言葉はそこで終わった。 光一の瞳からゆっくりと光が失われていった。 「光一・・・!?光一!?こう・・・・・。 うそやん・・・・・」 うそや! うそや!うそやう!!うそや!!!! 剛は自分の腕の中で息をひきとった光一の最期を見た。 それと同時に空っぽになっていく自分を感じる。 その空の心を満たしていく感情は、絶望。 ゆっくりと立ち上がり振り返る。 山下が笑っていた。 「山下・・おまえ!!!」 絶望に満ちた剛の目がそれを捕らえた。 「光一くん、死にました?結構しぶとかったけど。 一人にしてごめんね。もうすぐ、剛くんもそっちに送ってあげるよ」 山下の顔の輪郭が、ぼやけて揺れて見える。 自分の立っている足元も揺れているようだった。 剛の怒りは満ちた。 「なんで光一殺したんや。なんでや!なんで・・・なんで殺した!」 ぼろぼろと大きな瞳から涙があふれているそれを、ぬぐいもせず剛が叫んだ。 「なんでってこれはそうゆうルールだからです。最初に聞いたでしょ?そうしないと 首輪爆発して大野君・・みたいになるんだから。なんでとか聞かないでくださいよ」 「おまえ・・!中居君と連絡とりあってたみたいやけど、大野の首輪爆発させてみんなをこんなゲームに駆り立てた中居君をなんで信じられるんや? 大体23人で殺し合いっておまえ、わかってんのか!?人数、数えたか!? 俺ら全員で22人やぞ!!もう1人誰かおんねん!! そうや!中居君や!残りの1人は中居くんしかありえんやろ!! 中居君がおまえ利用して、最後に生き残ろうとしてるんちゃうんか!?」 俺らで22人? 中居君も参加者? 俺を利用? 利用・・山下の胸にその言葉が腑に落ちた。 命綱だと思って必死に掴んでいた綱の先を、突然ナイフで切りつけられるような不安に襲われた。 なぜ----? しかし山下は懸命にそれを振り払う。 「生き残りたいだけですから。オレは」 そう。いざとなったら中居君を殺せばいいだけだ。 「中居君と話するんや。携帯あるんやろ?生き残れる方法あるかもしぃへん。鍵のことも気になるし。光一もオレとおまえが殺しあってどっちか一人だけが生き残るなんて望んでへん」 ―――光一を殺したおまえをオレが許さへんとしても・・・・ また鍵かよ・・そんな時間はないんですよもう!生き残る方法が他にあるなんて思えないし!何を根拠にそんな希望もってられるんだよ?呆れたひとだよ全く! 山下はこれ以上剛の言葉に惑わされたくなかった。 時は刻々と過ぎていく。 タイムアップ。最悪のそれだけは避けたかった。 待ち受けてるものが死なら、それに立ち向かって戦うまでだ! 「説教ならもう聴きたくないです。年寄りくさいですよ。 光一君の遺言?それも俺には関係ないし。 だいたいキンキキッズて。キッズて意味知ってます? その名前も、もうだいぶ前からキツイんじゃないですか?」 山下が挑発するようにくすくすと笑った。 剛の瞳が燃え上がる。 ここまでいうても、あかんのか・・・ 光一、オレやっぱ、許せへんわ。 こいつだけはオレ許されへんわ! 「山下・・・なんで気づかれへん。おまえはただこのゲームに躍らされてるだけなんや。 それに気づかんと仲間殺して生き残ってもむなしいだけや」 静かな怒りと深い悲しみをたたえた剛の言葉だった。 「なにいってんですか?それは剛君だって同じでしょ? 光一くん犠牲なったんだよ剛君の。 それって大して変わりないんじゃないの。オレとしてることと。 それに本気で光一君みんなを助けるなんて思ってたのかな?どうにもできないって とっくに気づいてたはずじゃんかよ。偽善者っていうんだよそうゆうのって」 温度のない冷たい瞳で、山下が剛の言葉に負けじと言い返した。 違う。そやない。光一は違う・・・ 「あいつはそんでも信じたかったんや。 無理でもどうでも止められへんくても、自分が傷ついても、まだ、この狂った世界でも信じあえる心が残ってること証明しようとしてたんや!それだけを守り通してきたんや! けどおまえはもう全部失ってる。 例え生き残ったとしてもおまえには何も救いがのうなってしもうた」 それに気づかれへんからおまえは許されへんのや・・・ 剛は鞘を抜いた刀を強く握った。 うるっさいなー。 もう、いいですよそんなたわごと、だからなんだっていうの? オレは生き残りたいんだよ!それだけなんだから あんたらみたいにいい子ぶってんの見てると虫唾が走るんだよ!! 自分だって死ぬの恐いくせにカッコつけんなって!!大体戦わないで誰かに守ってもらって生き延びようってその根性がいやだね。 「オレに救いがないって?救いがないのはどっちか、すぐにわかるよ」 山下は2メートルほどしか離れてない剛に向かって、これが最後と言わんばかりに銃を構えた。 湿った空気が突如流れてきたと感じると同時に、ポツポツと天から雫が落ちてきた。 いつの間にか辺りは夜のように真っ暗になっていた。 巨大な黒い雨雲が島の上空を覆い尽くし、稲光が目を眩ませた。 遠くで雷鳴が轟いた。 ポタリ 大粒の雨が落ちてきた1秒後 ザアーーーーー 滝のような雨が降り注いできた。 この世界で流れた血を洗いつくすような勢いで。 大粒の雨が何もかもを濡らしていく。 光一の体を。 剛の体を。 山下の体を。 この世界全てを。 そしてまた稲妻が青く光り、黒い空に亀裂を入れた。 ドドドドン! すさまじい音が落雷を知らせた。 世界が揺れ、それと共に電光掲示板の光も消えた。 ち!くそ!!こんな時になんで雨なんか・・・!!! 視界が悪い。暗い上に、激しい雨のせいでガスがかかっている。 一発で決めないと、自分がやられる可能性もある距離感に、山下は武者震いを覚えた。 引き金を引こうとするが、雨に叩きつけられ長い銃身のそれは銃口が大きくぶれる。 照準が定まらない。 暗闇に走った稲光に、きらめく剛の刀。 ――殺してやる! 絶対殺してやる!! オレは誰のためでもなく、自分のために生きるんだ。 オレはオレ自身のために戦ってきたんだよ。 仲間?犠牲?友情? そんなのまっぴらなんだよ! もう終わり。 生き残るのはオレなんだよ! 雷鳴が轟く豪雨の中。 激しい雨を全身に受けながら 「死ねーーーーーーーーー!!」 そう叫ぶと山下は、刀をふりかざしてくる剛めがけ引き金を力いっぱい引き、 離した。 バンッ――― はぁはぁ・・・ 山下は自分の撃った弾丸を受けた剛が倒れていく様を見ていた。 「・・・やった!」 あ・・・れ? なんで? 目の前が真っ暗になったのは、周りが暗いからだと思った。 しかしそうではなかった。 痛みに目が眩んで視界がかすんでいたのだ。 山下は懸命に足を踏ん張り倒れまいとした。 うぐっ!! 喉から鈍い声が漏れた。 ついに耐え切れなくなり山下はライフルを取り落とすと、腹を抱えその場にうずくまった。 ってぇ! いてえ! ちくしょー!! 剛の手にしていた刀が地面に放り投げられている。 その刃先についている黒っぽく見えるのは オレの血・・・!? 雨がその血を洗い流していく。 山下はようやく気づいた。 剛が撃たれる間際に刀を振り下ろしてきたそれに、自分が傷つけられていたことに。 見ると腹部から血があふれ出している。 「んっだよ・・・いっ、いてぇよ・・・」 山下は雨の中、泥にまみれその刀を睨みつけた。 「山下!おまえが最後の一人だ!」 最後の戦いを、息を呑み木陰からこっそり見ていた中居が山下に駆け寄る。 ははっ やばかった〜!でも オレ・・・生きてるし!! やったよ! 中居君・・・ 雨に打たれ山下の体は冷え切っていた。 剛に切られた腹部を押さえ込んでいるが、手指の隙間からどくどくと血が流れ続けている。 はぁはぁ・・・ かなり痛いし、苦しいんですけど―― 焼きつくような痛み。内臓をえぐられているような苦しみ。 山下は中居の腕へと崩れ落ちた。 「山下、首輪」 びしょ濡れになって髪から雨の雫を滴らせながら、中居は山下の怪我など眼中にないという様子で首輪を指差した。 「はい?」 「自動的に外れたら鍵出てくるから、それオレに渡してくんないかな」 「・・・え?鍵?中居君に渡すの?」 「オレの首輪外すんだ。それで」 中居がシャツのボタンを外した。 開かれた首には―― 首輪 しかもそれはみんなのとは違って表面に鍵穴がついていた。 このゲームでの中居の役目は、武器を手にし戦うことは許されないかわりに、22名の戦士を戦わせることだった。 それを拒否することなどできなかった。みんなと同じように、拒否したとたん爆発する首輪をはめられている自分には。 中居君の首輪を鍵で外す? そっか、光一君と剛君の言ってた鍵って・・・ なるほどそうゆうことだったんだ。 どーりで中居君オレを味方につけて、生き残らせようと必死だったんだな。 まあ確かに、オレを利用したことにはかわりないのかも? それにしても携帯がオレに当たってラッキーだったじゃん中居君。 たぶん光一君なんかに当たってたら、絶対言うこときかなかったろうからな・・・ 中居の首輪の鍵穴を見詰めながら、山下は出血のためかぼんやりとした頭でそう思った。 血がとまらない。 流れ出る血を押さえている手にも雨は容赦なく降り注ぐ。 やば・・ほんとにちょっと苦しいかも・・・ 意識が遠ざかっていくようだった。 死がすぐ側までやってきてるような感覚を山下は懸命にこらえる。 ねえ。オレよくやったじゃん。 中居君、早くオレのこと助けてよ。 じゃないとオレ死んじゃうよ・・・ 山下の生への本能は中居に救いを求めていた。 中居は外れるはずの山下の首輪を見ていた。 しかし何の反応も起こさないそれを見て首を傾げる。 あれ?自動で外れるシステムなのに・・・ 山下の首輪に手をかけるがガチャガチャと音を立てるだけで、外れる気配が無い。 「何故外れない?」 時間内に生き残った者が最後の一人になると首輪の爆発機能が停止する。 そして次に自動的に首輪が外れ、中に内蔵されている鍵が現れる。 その鍵を中居の首輪の鍵穴に差し込むと、中居の首輪の爆発機能が停止し、同時に首輪そのものも外れる。 つまり22名のうちの一人の戦士プラス中居が生き残る。 それこそが正しいゲームセットの仕方なのだ。 また、22人の中で、最後に生き残った者は首輪が外れ助かっても、その鍵で中居の首輪を外さない限り、24時間後島中が禁止エリアになったとき中居が爆死することになる。 というように中居が死ぬ場合もゲーム上ありうることだ。 仲間に殺される可能性も、首輪が爆発する可能性も、みんなと同じように中居にもあるのだった。 もちろん22名全員死亡の場合、首輪は開かず鍵を取ることはできず、中居の首輪を外す手立てはなくなるというルール上、中居的には絶対に全員死亡だけは避けたかったのだった。 だからこそ中居は、携帯を手にした山下を意のままに操ろうとしていたのだ。 誰の手に渡るのかは全く運しだいだったその携帯は、自分の命を救うためにゲームを導くことができる中居の武器だったのだ。 ピッ・・ あれ? なんで? 首輪の音・・・だよねこれ? ピッピッピッ・・ なんで、だよ? 山下が自分の首輪を指差し、それから中居の顔を見詰めた瞬間、中居の首からも同じ音が鳴り響き点滅を繰り返し始めた。 ピッピッピッ・・・ 「まじかよ!」 なぜだ!? 中居の全身を戦慄が走った。 もう聞くことがないはずの忌まわしい音が山下の首輪から鳴り響き、自分のそれも音と光を発し始めた。 それは爆発まであと5分を知らせる音だった。 ザーザーと激しく降りしきる雨の中、二人は互いの首輪を見詰め合った。 不気味な音を発して光り続けている鉄の枷を。 「これ、なんで鳴ってるの?中居君!!」 山下が苦しげな声を張り上げた。 なんで・・って・・・おかしい! なぜ首輪が鳴り出したんだ!? ということは・・・まだ山下以外で生きているものがいる! 光一か?剛か? 掲示板を見上げるが、先ほどの落雷でまだ復旧していないらしく真っ暗なままだ。 山下は音を発している首輪に手をかけ青ざめた顔で半狂乱になりわめいていた。 「なんだよ!これ!ざけんなっ!中居君なんとかしてよ!!」 しかし中居は冷酷な顔で山下を押しやった。 弾みで山下はその場によろめき地面に両手をついた。 非常事態に思考が麻痺した中居は、何を思ったのか、地面に放られているライフルを取り上げ、銃口を真っ直ぐに山下へと向けた。 「おまえが死ね!」 え?? 目の前の山下の顔がなんで!?と訴えていた。 バン! 山下は身を翻した。かろうじて弾は腕をかすっただけだった。 しかし尚も中居は、恐怖で目が見開かれた山下に銃口を向けた。 「中居君!?なんでだよ!何考えてるんだよ!」 山下は痛みをこらえ叫んだ。 中居君オレのこと生き残らせてやるって言ってたのに。 オレ殺すの!? ピッピッピッ・・・ その間にも無常にも首輪の音は鳴り続けている。 もう時間がない! 中居が引き金に指をかけた。 「中居君!オレ殺さな・・・・」 山下の表情が恐怖で凍りついた。 ためらうことなく中居は引き金を弾く。 バン! 弾丸が山下の胸元を吹き飛ばした。 撃たれた箇所から血がほとばしった。 な・・・ 山下が頭から後ろに倒れると、水しぶきが派手にあがった。 バン! バン! 肩を大きく揺らして銃を撃った衝撃に耐えながら、尚も撃ち込む中居。 こんな・・・こんなことってあるのかよ! 血を噴出した山下の体を激しい雨が洗っていく。 なんで・・オレせっかくここまで・・なんのために今まで・・ なあ・・ 中居君あんまりじゃん・・・・・ 中居が自分を見下ろしている顔が揺らめいて見えた。 そのとき 「中居君に気をつけろ」 山下の胸の奥深くにつっかえていた、光一の最後の言葉が聞こえてきた。 ああ・・・、結局あなたの言うとおりでしたね・・・。 体が・・・動かない。 寒いよ。 痛いよ・・・ オレ死ぬの・・・? それでも命が尽きることに本能が激しく拒否をする。 やだよ・・・。 死にたくないよ! オレ死にたくない! そんなのやだ!ぜったいやだ! まだオレやりたいこといっぱいあるし! 怖いよ!死んだらどうなるの!?ねえ・・・!! 「死にたくな・・・」 もう一度とどめを打とうと中居が銃口を山下へと向けたとき。 ゲームオーバー・・・・ 山下の首輪の音がピタリと止まった。 ピピピピピピピピピピピ・・・ しかし一層早くなる中居の首輪の点滅と音。 やばい!鍵を手に入れないと 早く! どっちだ!剛か!?光一か!? 土砂降りの雨の中、中居の目が鍵を求め俊敏に動く。 すると、信じられないものを瞳が捕らえた。 剛が立ち上がっていた。 その手にぶらさげているものは外れた首輪。 雨に全身を打たせながら、剛は自分のどこに立ち上がれるだけの力があったのか、不思議に思っていた。 体から流れている血が雨によってさらに流されているようだった。 足元には薄まった血の水溜りができていた。 さっきまで自分の首輪が音を発していたような気がしたが、いつのまに鳴り止んだのか 「 カチャ」 というかすかな音を立てあっけなく外れた。 剛はそれを手に持っていた。 24時間前からずっと自分を、光一を、仲間を縛り付けていた、たった今まではめられていた恐ろしい首輪を。 そしてそこから出てきた小さなものを見詰めた。 この鍵や。 光一の言ってた鍵って・・・これやったんやな・・・ 剛は首輪に内蔵されている鍵をもぎとった。 首輪を持っていた手をだらりと下げる。 力を抜いた指からそれが離れ、血と泥の混じった水溜りへ沈み込んだ。 中居が叫んでいた。 「剛!鍵よこせ!」 見ると中居の首輪が早い速度で光っていた。雨の音に混じり規則的なあの音も聞こえる。 「鍵・・・欲しいんですか?」 「早く!それをよこすんだ」 中居がまた叫ぶと、水煙が立ち上る雨の中を泳ぐように走ってくる。 スローモーションのようなその動きを剛は見ていた。 そやったんや・・・やっぱり中居君も首輪つけられてあやつられてたんやな。 そんでこれを手に入れるために必死やったわけや。中居君の首輪外すこの鍵を・・・。 剛が哀れむように中居を見た。そのとき。 ついに側まできた中居が剛の手に飛び掛ろうとした。 「止まれ!」 剛の声が雨音を引き裂くように響いた。 中居がびくん。と体を震わせ足を止めた。 「もう終わりや」 オレがこのゲーム終わらせたる。 鍵を握り締めた手を頭の上に持っていき、剛はさらに固く強くそれを握り締めた。 ピピピピピピピピ・・・・・ 雨音に消されまいとするかのように、中居の首でその音は残り時間が少ないことを懸命に訴えている。 「なあ、剛・・・それよこせよ・・オレたち生き残れるんだぜ? ・・・オレ見殺しにしておまえ一人で生き残るつもりかよ!?」 中居が懇願するように一歩前へと進み出た。 中居君・・・みんな死ぬの平然と見てたくせに、自分は命乞いか・・・ 剛がかすかに首を振ると、雨に濡れた睫が震え雫が落ちた。 涙のように。 中居の顔が恐怖で色を失った。 じりじりと後ろへ下がり続ける剛。 「早くそれよこすんだ!」 ついに中居が飛び掛った。 たまらず倒れた剛の上に馬乗りになる中居。 すぐ下は断崖。 剛の意思をもった手が鍵を空中へと放った。 鍵!鍵!! 中居はそれを取ろうと大きく身を乗り出し腕を伸ばした。 鍵は崖下へとゆるやかな弧を描いてゆっくりと舞いながら落ちていく。 「鍵!オレのか・・ぎ!」 中居が絶叫し、鍵を追ってその身を空中に躍らせた。 ピーーーーーーー バアアアアン!! 落ちていく中居の首が爆発し、 その肉片と共に中居のからだも 切り立った岩がそびえ立つ海へと吸い込まれていった。 ゲームセット 【 堂本光一 山下智久 中居正広 死亡 】 【 勝者 堂本剛 】 「うぉぉぉーーー!」 誰もいなくなった島に悲しげな叫び声がこだますると、剛の慟哭が合図だったかのように 突然雨が降り止んだ。 雨雲が去り、青空に太陽が現れた。 眩しい光が全地上に注ぎ、露の玉をびっしりと蓄えた緑の葉がそのひとつひとつの雫に太陽の光を集め、まばゆいばかりに輝いた。 きらきらとした清涼な空気が島を満たす美しい自然の中、剛はゆっくりと倒れていった。 痛みすらもう麻痺していた。 倒れたままじりじりと這いつくばりながら自分の手を伸ばしていたそれが、ようやく光一の手に触れたのを剛は感じた。 ――光一、オレうれしかったんや。 二人でまた曲つくらな言うてたやんか。ずっと前や。 mコードで始まる曲。おまえ忘れんといてくれたんやな。 オレの詩に曲つけるておまえ・・いうてくれてオレうれしかったわ 一緒にそれ歌わなあかんやろ? はよここ出よな・・・なあ。 二人でせなあかんことまだめっちゃあるし 光一 起きな・・・なあ。光一 なんでや? おまえの手 つめたくなっとる。 俺の手もつめくなっとる・・・雨にたくさん打たれたからやろか 少し疲れたな・・光一 オレもねむとうなってきた・・・ 二人でこのまま少しだけねむろか・・いいよな? やっぱオレたち二人が似合うな・・ 青空みてみぃ ほら、めっちゃ綺麗やで 光一 ――― まぶたを閉じた剛の目から一筋の涙が流れたが、それを認めたものは誰もいなかった。 その頭上で、勝利者を祝う花火とファンファーレが、派手な音を立てて青い空に鳴り響いていた。 【 堂本剛 死亡 】 |
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